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作品名 アカンタレの話(31) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(31)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/01/26 09:32:22

+++一緒に登った経験は無いが、確
か千回登山を達成した筈である。一回
で寿命が一ヶ月延びる筈で、だから百
歳まで生きる勘定だったが、八十九で
死んだのは残念だったろう。

30-31/50.高倉山

 お正月休みに登山している人がいる
かと思っていたが、休憩所に人は居
らず、途中の山道も誰にも遭わなか
った。最近は楽しみが多いから登る人
が少ないのか、それとも早朝登山の時
間を過ぎている為に、恒例の人たちは
下山してしまったのかもしれない。

 休憩所を出た処で山道が交錯して
おり、実際に迷った。行きつ戻りつし
て三十分を浪費した。昔若い時分に迷
ったのと同じ経験を、再度繰り返した
のである。

 又道が判らないのかとがっかり仕掛
けたが、今回は地理が頭にあり確信的
な見当がついていたから、方針を変更
して分岐点の探索を諦め、代わりに真
っ直ぐ鉄拐山の頂上を目指す事にした。

 これが良かった。更に登る内に、杭
に打ち付けた手書きの二つの矢印が目
に入ったのである。一つは鉄拐山の頂
上を指した登り道で、指されなくても
判る明快な本道である。もう一つは
「高倉山へ」と書いてある脇道である。

 そうか、あれは高倉山というのか! あの女の子は高倉町だと言っていたー
ーー。その道は高速道から眺めた見晴
台への方向と、一致していた。

 分岐点は、思っていたより案外高い
山の九合目位の位置にあったのだ。そ
れ自体に私はびっくりした。小ニの
当時、弱虫の私がこんな高所まで女の
子に連れられてよく登ったものだー
ーー、と自分自身に感心した。

 脇道である「高倉山へ」の入り口は
決して魅力的な感じがしなかった。大
きな木が道を覆うように繁り、日が当
らない方向なので、あたかも谷方向へ
向かうかのように薄暗く陰気な印象を
与えた。矢印が無ければ、いや有っ
ても、目的を持つ人以外は敢えて選ば
ないと思わせる雰囲気である。

 その道を選んだ。山の斜面に付けら
れた五十センチ幅ほどの道で、木立で
薄暗い。道を二百米ほど進んだ時、対
抗する向いの山から反射する陽光が、
こっちの薄暗い山の斜面を所々濡らす
ように明るくしていた。さらに百米ほ
ど進んだ時に、辺りに見覚えがあるの
に気付いた。

 反射される陽の翳り具合も忘れてい
なかった。「ここだ!」と直感し
た。「もう帰るーーー」と逃げ戻った
場所に違いなかった。最後に別れた二
人の立ち位置も覚えていた。私は細い
道の谷側寄りに立ち、上背のある女は
山側に立っていたのだ。

 私以外に人は居ないのに、木立の間
から女が私を見ている気がして、暫く
そこへ立ち尽くした。
(つづく)

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みのり
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