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作品名 アカンタレの話(17) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(17)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/01/12 11:00:10

+++青い顔をして普段より遅く帰宅
した私に、母親が理由を尋ねたかど
うか、私がどう言い訳したのか、など
は覚えていない。しかし、訊かれても
決して本当の事を言わなかったのだ
けは、確かである。

17.消えた女
 薄暗い木立の中に立った女の静かな
目と、震え上がった自分の気持を今も
忘れていない。この歳になっても鮮や
かに思い出せるのは、事件が余程衝撃
的だったからだ。

 けれどもその後の女の記憶は、ふっ
つり途切れている。今もって奇妙で
ある。普通なら次の日に学校で女に遭
った筈だから、前日の「怖かった冒
険」について、女と何か会話が持たれ
ても良さそうな筈である。

 学校で恥ずかしければ、帰り道に機
会はあった筈。が、あとには白紙のよ
うに何の記憶も残っておらず、記憶喪
失のような現象が、起きた。女の姿は
私の視界から忽然と一切が消失してし
まったのである。

 しかし女が死んだ訳ではないし、教
室に毎日居なかった訳でもないーーー
と思う。と思う、と書いたのは本当に
記憶が無いからで、そう推測するより
仕方無いからである。

 山道の事件の翌日から以後「ずっと」、多分私は教室で女と「目を合わ
さない様に」していたのだ。こっちか
ら「視線を向ける」さえせず、帰り道
も一緒にならないように、女を避けて
いたに違いない。いや本当は「逃げて
いた」、としか考えられない。

 だからこそ、女の姿を一度も目にし
なかったのだし、視界から忽然と消え
てしまったのであろう。それ以外の説
明が付かない。これは他人の目に一見
不可解に映るかも知れないが、今の歳
になってみれば、最も真実に近いと私
は確信している。

 不思議な事に、その事件の辺りを境
に以後私は苛めっ子らに泣かされる事
が無くなった。それに、医院でカルシ
ウムの注射は依然として継続したが、
震撼するほど針がグサリと痛くても、
まるでベソをかかなくなった。むしろ
平然となったのである。私の中へ心棒
が一本通ったみたいに強度が増し、何
かが確かに変化した。

 学年が上がりクラス変えが行われ、
カルシウムの注射は何時の間にか無く
なったが、又その後小学校を卒業して
公立中学になっても、女の姿は私の視
界から消失したままだった。

 校区が同じだから中学校も同じで、
通学の為に私と同じ国鉄須磨駅で乗降
しなければならなかった筈である。し
かも女の住む高倉町は私の潮見台より
も駅から一層遠方に位置したから、女
は茶店から下山して来て、潮見台町の
中を通り抜け、私と同じキツネ坂を行
き来した。

 同じ通学路なのに、不思議な事に中
学の校内は無論行き帰りの路でも、一
度も女の姿を見掛けた事が無かった。
この説明は不合理としか言いようがな
いが、仮に実際に見ていても、私は女
から目をそらせ続けていた事になる。
人には、そういうことが可能なのだ
ろう。  
(つづく)

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