++++ひょっとしたら未だ繁殖力もあるかもーー)
という色が、女達の顔にありありと浮かんでいた。ど
うやら期せずして、私は「キャハハー」の急所を突い
たらしい。
(6)
こんな空気を素早く読み取って逃さないのが、元
トップセールスマンであった私なのである。ここぞ
とばかり、調子に乗った。
「それにねえーー」と女達の顔色を窺いながら続
けた:
「店を開いたら、技術も大切だけど、営業トーク
はもっと大事だと思うよ。リピーターの獲得が
一番さ。きっと中年の女性も多く来るでしょう。
褒め殺しをやるんだ。
「マッサージをやりながら、こう褒める。「まあ
奥様、ハリのあるお肌ですわ。こうして触って
見るとすぐに判ります。手が跳ね返って来ます
もの。何かスポーツをなさっていますの? き
っとそうなんでしょうね?」
「健康の為に週一でダンスの練習をしているの
よ!」
「まあそうなんですか、やっぱり!運動なさって
いる方は、お肌のハリがまるで違いますわねえ!」
30代の生意気な「キャハハー」の一人が、突っ
込んで来た。
「もしその奥さんが案に相違して、運動もせず家
でゴロゴロ怠けているだけだと答えたら、どう
云う積もりよっ? 困るじゃないの!」
元トップセールスマンは、すかさず応じた。
「エッ、そうなんですか!信じられナーイ! けれ
ど、失礼ですが奥様の年輩で、めったにこんなハ
リのあるお肌の方はいらっしゃいませんわ! や
っぱり「生まれ付き」なんですねえ。羨ましいで
すわーーー」
たぶらかしのセリフが、すらすら出て来て来る自
分が、げに恐ろしい。こっちを眺める女達の目に、
いよいよ尊敬の色さえ見え始めた。
「純生(じゅんなま)の男」がここにいる!と初め
て認識したのである。瞳(ひとみ)さえ潤んで来た
から、いよいよ「キャハハー」対「たぶらかし屋」
の対決である。
「使えるかどうか、試して見る?」のゴールに向
けて、私はあと一歩の処まで漕ぎ着けている。クリ
スマスも近い事だし、今月末の卒業日までには、何
とかしたい。
完
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