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作品名 スイカの話(2) 評価 評価(1)
タイトル スイカの話(2)
投稿者 比呂よし 投稿日 2013/11/16 12:30:18

++++夏でもその頃、我が家ではスイカなどそう
頻繁には口に入らなかったからである。

(2)
 珍しくスイカの一玉が今日の家族のおやつという
日には、それは大抵日曜日であったが、風呂桶に入
れて冷やした。入浴も週に一度の日曜日だったから、
風呂桶に水を貯めるのと兼用である。

 それは長男の私の役目で、朝から蛇口の水をちょ
ろちょろと少しづつ出して、桶に貯めながらスイカ
を浮かべた。正確に言うと、ちょろちょろと水音を
立てるのは未だ不慣れな部類で、蛇口からスッーと
音も無く糸を引くように細く垂れ流すのがコツであ
る。ただし細すぎては、知らぬ間に水が停止してし
まうから、蛇口の按配は難しい。

 こうやって桶一杯に貯めるのに半日以上掛けたか
ら、水を細めるのは相当な苦心であった。そんな秘
かなやり方をすると、品質の悪かった当時の水道メ
ータは簡単に騙されて、針を回転させるのを忘れる。
水道局の上前をはねる秘法を、子供たちは生活の知
恵として母親から教え込まれていたのである。

 楽しみにした三時のおやつの時間が来ると、蛇口
の調整に苦心して冷やしたスイカを、母親が切り分
けた。当時冷蔵庫は無く水で冷やしただけだったが、
赤い果肉は冷たかった。日盛りの暑い縁側で、すぐ
目の前が板塀になっている幅1.5m程の庭に向か
って口から種を飛ばしながら、私を含めた子供たち
は食らい付くようにして食べた。甘かった。

 そんな貴重なスイカを、毎晩会社の帰り道に無造
作に食べられる身分の叔父さんを、まるで大富豪の
ように思ったのである。「大人になって会社員にな
ったら、帰り道に必ずスイカを買って、食べながら
帰るんだ」と、私は密かに誓いを立てた。

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