「ねえー、映画を見に行かなーい?」
「はい、行きまーす」
妻からの誘いです。
私はこれを、断ったことがありません。
「吉永小百合が主演なの、『北のカナリアたち』って」
「行かせて頂きます」
いい返事でしょ。
何時もこうなのです。
映画なんか、私は実は、どうでもいいのです。
妻の機嫌を損じては、いけません。
私は、一人でふらりと旅に出るなど、
普段放埓を繰り返しておりますから、家庭平和の維持には、
人一倍、気を使っているのです。
北海道の離島、そこにある小学校の分校が舞台でした。
吉永小百合演じる先生と、その六人の生徒。
二十年の時を経ても、変わらぬ師弟愛。
これが爽やかです。
友情が横糸をなし、男女の愛憎が、これに交錯し、ドラマに綾をなします。
回想を織り交ぜつつ、次々明らかになる真実。
些細な齟齬から来た、懐疑そして離反。
でも、心の中には、相手を思いやる気持があり・・・
人間の弱さと、その中にある美しさが、鮮やかに描かれています。
やや作り過ぎの感があるものの、全体として、快い映画でした。
吉永小百合、歳を取っても、美しいです。
声がいいです。
「うーたーを忘れたーカナリアはー♪」
生徒たちの歌う、数々の歌がいいです。
季節折々の、北の海と、その海の上に屹立する、利尻岳が美しいです。
映画はこうでなくてはいけません。
ストーリーもさることながら、音楽と風景、映画には、これが大事です。
「少し重い映画だったかしら?」
「まあ、いいでしょ」
「吉永小百合のキスシーン、あれは見たくなかったわね」
「あれがないと、ドラマにならない」
妻とは、少し意見が分かれました。
大いに違ったものもあります。
涙の量です。
私は何度、目頭目尻へと、手を動かしたかしれません。
ラストシーンに至り、とうとう、垂れ流しになりました。
映画館は、暗いから助かります。
横目で見る妻は、平然としていました。
「うどんでも、食べて帰ろうか」
「そうしましょう」
やっと意見が合いました。
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