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作品名 決算!忠臣蔵 評価 評価評価評価評価(4)
タイトル 異例の映画
投稿者 パトラッシュ 投稿日 2019/12/10 10:29:26

江戸時代の蕎麦代は、一杯十六文と決まっていた。
その蕎麦を基準に、江戸の通貨を現在の価値に置き換えると、
一両が十二万円ほどになる。
という解説が、映画の冒頭で行われた。
この映画「決算」の副題からして異色であり、ストーリーもまた
「金勘定」により、幾多の曲折を余儀なくされるなど、異例尽くめだ。

確かにこの世では、先立つモノなしには、何事も進まない。
しかし私達の中には、金を卑しむ風潮もある。
偉業が達成されたその際に、私達は先ず、その精神面に目が行く。
「艱難辛苦」「一致団結」「不退転の決意」などが称賛され、
次に「周到な計画」などの智謀に焦点が当たる。
何を行うにも必要な「資金」これに描写が及ぶことは、ほとんどない。

それはおかしい。
偉業と言う山の頂上を見ているだけで、山麓と言うものを無視している。
富士の頂きは確かに美しい。
しかしそれは、宙空に浮いているのではなく、目を転じれば広大な裾野がある。
という視点から、この物語は編まれ、そして映画化されたのだと思われる。
だから「一風変わった」というより「かつてなかった」忠臣蔵となっている。

お家の断絶、それは今風に言えば、会社の解散のようなもの。
社員達は、明日からの食い扶持を心配せねばならない。
赤穂藩は、塩田という資産を抱え、財政はそこそこ豊かであったようだ。
割賦金と言う名の分配金、今でいう退職金をもらい、城を去って行った者も多い。

一方に「金じゃない。社長から受けた恩義はどうなる」との精神論を展開する向きもあった。
会社倒産に至る過程で、不正義がまかり通り、不公正な結果となった。
その原因となった相手に、一矢報わねば、社員としての面目が立たない。
ここに「忠義」という概念が登場する。

しかし、その忠義が、この映画の場合、声高に叫ばれることはない。
徹頭徹尾、金銭が先に立つ。
事の成否は、資金で決まる。
となったのでは、味気ない思いの観客も、少なくはないであろう。
しかし、冷静に考えれば、それも一理ある。
お金と言う、この世で最も汚いものを基にして、忠義という、
ある種崇高な行為を際立たせる。
それは、文学はもちろん、他の芸術でも行われる、一つの手法だ。
敢えて観客の意表を突いたこの映画を、私は絶賛はしないが、
一定の評価はしたいと思っている。

 * * *

「みんな、怒鳴ってばかりなのね」
映画館を出た後で、妻が言いました。
この映画を、喜劇と聞いていた彼女は、ギャグの横行する、軽妙なコメディを期待していたようです。
「監督は、従来の忠臣蔵の枠を、取っ払いたかったのでしょう」
私は、製作者の意図を、代弁してあげました。

「さ、お昼食べにゆこ」
彼女が先に立ち、銀座の町を歩き始めました。
ある老舗の天ぷら屋を目指してです。

実は彼女、先日福引でその店の「天丼無料券」が当ったのです。
その有効期限が迫っていました。
「ねえ、銀座へ行かない?」
「私の分も無料になるのかい?」
「一名だけよ。あーたはお金出してね」
「………」
わざわざ天丼を食べるために、銀座へ行く……
間尺に合いません。
でも、家庭平和は、夫婦の妥協により、保たれるのです。
「じゃあ、ついでに、映画でも見るか」
でもって選ばれたのが、この映画です。

妻にとっては、ついでの映画、私には、ついでの天丼ということになります。
どちらもまあまあでした。
忠臣蔵は、この国の演劇界の富士山です。
これを見飽きたと言う人は居ません。
たまに、その山麓を逍遥するのもいいでしょう。
樹間から寸見する、その山頂風景にも、また別の興趣があるとしたものです。

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コメント

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漫歩さん

タイトル通り異色な映画ですね。
廃藩となり浪々の身となる藩士たちにとって割賦金は最大の関心事であったことは想像に難くありません。
そこに視点を当てたことは興味深いですね。

私の天丼は専ら浅草です。銀座の天婦羅屋の暖簾をくぐったことは無いのではないかな。そうですか、まあまあでしたか。(笑)

2019/12/10 20:45:15

yopikoさん

この時期なると必ずと言っていいほど
何処かのテレビ局で忠臣蔵を放映してるものですが今年は無いみたいです。
とても寂しいと思っておりました。
でもこちらで忠臣蔵に出会えましたので、良かったです。

2019/12/10 21:31:36

パトラッシュさん

漫歩さん
武士の生活を、お金の面から描いた映画に「武士の家計簿」というのがありました。
上辺だけではなく、その内実に迫ることで、より実像を伝えることが出来たと思われます。
今回の映画は、それを忠臣蔵の舞台でやった。ということでしょう。
たまには、こういう作品も、いいかもしれません。
本格的忠臣蔵が、いくら見ても食傷しない半面、これは多分、一回限りだと思われますが……

浅草の天ぷらは、ごま油を使うのでしょうか、濃厚な味だったと記憶しております。(店により異なるとは思いますが)
銀座のは、それに比べ、ややあっさりした感じがしました。
話のタネに、一度お召し上がりになってみて下さい。

2019/12/11 05:51:07

パトラッシュさん

yopikoさん、
そういえば今年は、忠臣蔵はこれしかないようですね。
お暇がありましたら、どうぞご覧になって下さい。
これまで知られなかった、忠臣蔵の裏面を知ることが出来ますから。

2019/12/11 05:55:26


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