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読書日記
『天を灼く』『地に滾る』『人を乞う』 <旧>読書日記1422
2023年08月14日
テーマ:<旧>読書日記
新しい作家を開拓しようと思って買った本。「天・地・人」と題名に織り込まれた3冊シリーズである。
あさのあつこ『天を灼く』祥伝社文庫
紅く焼ける空の下篠突く雨の中を、元服前の天羽藩大組組頭・伊吹家嫡男の藤士郎は、父・斗十郎の佩刀を抱え、山奥にある牢屋敷に向かっていた。姉・美鶴が嫁ぎ、両親や親友の風見慶吾、大鳥五馬と送る平穏な日々が暗転したのは二十日前。豪商・出雲屋嘉平と癒着し藩を壟断したという咎で斗十郎が捕縛されたのだ。
切腹が申し渡されたこの日、謎の若者・柘植左京に牢屋敷に呼び出された藤士郎に、斗十郎は身の潔白と藩
政改革の捨て石になると告げ、介錯を命じた。
という書き出しで始まる青年武士の成長物語。父の介錯をした時、藤士郎はまだ元服前。一月足らずにして五百石の上士の嫡男から罪人の息子へと立場が一変し、住む家も引き払って田舎住まいになる。父はなぜ切腹しなければならなかったのか、などいくつかの謎が藤士郎を取り巻き、やがて父の隠した汚職の証拠を発見した藤士郎は藩からの刺客と闘い、江戸に向かって脱藩する。なお、謎の若者・柘植左京は父の子であり、藤士郎の姉の美鶴と双子であることが作中では明かされている。
(2021年2月3日読了)
あさのあつこ『地に滾る』祥伝社文庫
追っ手を振り切り、無事江戸に着いた藤士郎(この過程の記述は無く結果だけが示される)。貧乏長屋に暮らし、長屋のおかみさんたちからの評判も良い。この長屋に住み着いたいきさつや大家の福太郎が斡旋してくれた職とその続きなどは都合が良すぎて作者のご都合主義とも言っても良い。
一方で著者は故郷の村で年老いた藤士郎の母茂登子と暮らす姉・美鶴の状況も記しつつ、活気あふれる江戸の町で暮らす藤士郎は江戸の身分制などにも思いを巡らしていくが、江戸への途中で別れ別れになった左京とも再会し、藩主との対面をはかるようになる。あれこれあって天羽藩下屋敷に潜り込み藩主一行と国に帰ることになったところで終了。
(2021年2月3日読了)
あさのあつこ『人を乞う』祥伝社文庫
政が大きく変わる様を見届けるため、江戸から故郷に戻ってきた天羽藩上士の子・伊吹藤士郎と異母兄の柘植左京。藤士郎は母や姉が自分たちなりの生き方を見つけ、逞しく暮らしている様に驚く。友とも再会しわだかまりを解いた。だがそれも束の間、藩から登城せよとのお達しが。意図が分からぬまま、藤士郎と左京は揃って城に参上するが、そこで側用人・四谷半兵衛から告げられたのは決して受け入れられない沙汰だった。結局、2人は権謀術数の手先となる運命なのか。
天羽藩の若き藩主は藩政改革を望み、藩主をないがしろにする重臣どもが思いのままに藩政を蹂躙している。それを覆す展開になるのかと思いきや、話は思わぬ展開を見せていく。『天を灼く』で種がまかれ、『地に滾る』で芽生えたかに思える藤士郎の思いは、農民の代わりとなっての訴状となり、結末に至る。
(2021年2月4日読了)
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