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『始動』 <旧>読書日記1356 

2023年03月28日 ナビトモブログ記事
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上田秀人『始動』小学館時代小説文庫

勘定侍柳生真剣勝負シリーズの第2弾。惣目付として大名の行動を監察していた柳生宗矩は将軍家光からその功績を認められ加増、1万石の大名となった。しかし、惣目付は旗本の役目であり、役からは降りることになる。監察する側からされる側に回った柳生家は厳しい立場になる。しかし、家光は秘かに親藩の非を暴くよう柳生に命じており、宗矩は財政を守るために隠し子であった承認の淡海屋一夜を召し出した。

主人公である一夜は宗矩の意図を読み、早晩、財政を任せられると読み、宗矩と対面する前に柳生の里に行き、減知の様子を調べようとするが、在地の兄にあたる柳生十兵衛光巌や次兄宗冬にはそうした自覚はなく、一夜に剣の修行を強要する。というのが前巻の粗筋。

今巻では一夜は宗矩の至急江戸に来いとの命令で柳生家家臣の武藤大作と江戸へ向かって旅立つが、途中の京都で商人と会うなど布石を打つなどの道中でもあり、一夜の持つ金を狙う浪人数人に襲われるなどの波乱の旅であった。無事に江戸についた一夜は晴れて父と子の対面をするのであるが、一夜は柳生家の一門としてでは無く、勘定侍として雇われることに固執して、父と交渉する。

この辺り、これからは「金の世の中」と見切っている一夜という性格付けであるが時は史書をひもとけば寛永13年(1636年)のことであり、後世から見れば江戸時代は「商人の世界」になることは確かであるが、この時点でそこまで見通せるかどうか。江戸三大改革の初めである享保の改革は1716年に始まっているが、この時点から80年先のことである。言わば第二次大戦直後の日本で今の日本の経済情勢を見通すようなものであり、ちょっと無理があるのではなかろうか。

それはさておき、父、宗矩は一夜を百石(1万石の1%)で召し抱えるということになり、一夜は淡海一夜としての江戸での生活が始まることになる。柳生屋敷の門番である素我部一新、一夜の身辺を探る甲賀忍者とそれを使う惣目付の秋山修理亮、大坂の一夜の育った淡海屋、そして江戸で知り合った商人金屋儀平および金屋に紹介された駿河屋など新たな登場人物を配してこれからどうなるかという一巻であった。
(2020年8月6日読了)



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