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シニアの放課後
十牛訓ー7 <1−尋牛>C(終)
2018年08月28日
テーマ:中村天風<十牛訓>
それから第三は <大心>です。
これは菩提心と同じで 悟りの境地にある心。つまり 心を大海のごとくひろびろとしてもてと こう言う。この三つが修行衆の必要な心だ。
と聞くと いかにもわかったようだが これみんな難しいよ。仏教の方からいくと なかなかありがたいものに会ったときに喜べ。そして 常に思いやり―敵に思いやりってできるもんじゃない。<思いやり?> <あ そうだ 思いやり>と言われたって ここで教えを聞いて 心の中の明かりを説かれている人はともかく それでなかったら ともすれば 自己本位で 他人なんかどうでもいいという気持になるんだ。
それから 心を大海のごとく広く と言われたときだけは 何かばかに広くってもだね もうすぐいけなくなりゃせん? <こんにちは>といった時に むこうがツーンと知らん面してると <ちぇっ なんだ ばかやろう>と思うだろ。すぐ池ん中の金魚みたいになっちまうじゃないか。
さてそこで なぜ本性を求めよというかというと やっぱりこの三つの心が形ある状態で自分を満足せしめるようにするためなんだけれども 私ども凡俗は普通の場合 <五欲・六塵・七情>にとらわれているんだ―こう仏様の方では言うんだよ。
五欲というのはね 金がほしい 色事の相手がほしい うまいものが食いたい 名誉がほしい できるだけ遊んで暮らしたい というやつなんだ <財・色・食・名・睡>といってね。
六塵は―どうしても<色>がくっついてんだけども よほど仏様も助平だったとみえる。
六塵は <色・声・香・味・触・法>としてある。この<法>だけは普通の人は知らないかもしれないけれど あとは五感だから知ってるね。色に 声に 香りに 味に 触ること。<法>というのは<のり>のことです。
それから七情というのは <喜・怒・哀・楽> それに<懼れ(おそれ)>に<妬み>に またここに<淫>がでてる。淫というのは助平なことだろ。<淫乱>の淫だよ。
笑うけどもねえ 近所の男の子が僕らを慕って しょっちゅう家の座敷に来るんだけども 僕には抱かれようとしないで きのうも私の娘の真樹子や他の女の人のところだけに行くんだ。
<不思議ですねえ。この子 女を本当に恋しがる>と言うから
<この子ばかりじゃない。男の子はみんな女を恋しがる>
それがねえ 私みたいになってもやっぱり女を恋しがる。その反対に 今度は女の子は男を恋しがるようにできているんだ。これは人間ばかりじゃないんだ。虫けら バッタもそうなんだ。
そんな難しい顔して私の顔を見るんじゃないの。難しい顔してるやつほど助平なんだ 本当は。そうなのよ。おばあちゃんや何かで難しい顔して まるで仇のような顔して私の顔を見てるのはね つまり結局 自分がどうにもそういう気持になれないひがみ根性だ そりゃあ。
七情にも淫があり 六塵にも色があり 五欲にも色があるんだ。だから 別に仏様が助平だったんじゃないけれども 仏様も困ったんだな 自分でやっぱり。とにかく 猿の手にとりもちがくっついたように五欲・六陣・七情に執着して 本性から離れて生きたくなくたって生きてることになっちまうから 人生をどうしても不如意で 不幸に陥れるという結果が来るんだ。
これを逃れないと 本当の生きがいのある人生 こやしないもん。私がしょっちゅうあなた方に言ってるだろう。人間は雑念 妄念があるかぎり 本心 良心はでてこないんだから 雑念 妄念をとるために しょっちゅう<観念要素の更改>(『成功の実現』97頁参照)をして 心の中をきれいにしようと。
『涅槃経』にね こういうことが書いてある。
一切衆上悉く仏性有り<一切衆上 悉有仏性>
何でも そらもうどんなものでも 人間ばかりでなく 虫けらにも仏性がある。ただ <煩悩覆うがゆえに知ること 見ることあたわず>と『涅槃経』に書いてあるのは けっきょく雑念 妄念があるから駄目だよということなんだ。
私の心身統一法では 観念要素の更改をそれがゆえにやかましく言ってるだろう。やかましく言ってる割合に 本当に私同様やってくれてる人が何人あるだろうかと いつも思うんだ。よく言うだろう <私のこしらえた心身統一
法を世界中でいちばん熱心にやっているのは私自身だ>。まあ だんだん聞いていくうちに思い当たることがいくつもあるだろうから。
何人にも本性は生まれたときからあるんだ。本性がなかったら生きてやしないもん。ただ 本性を煩悩が覆ってる。雑念 妄念が あなた方 ないような顔して私の顔を見てるけども ないどころか そればっかりかもしれないよ。雑念 妄念は潜在意識の中の観念要素の中にあるんだもん。だから しょっちゅうこれを更改しなきゃいけない。つまり 自我の本質自覚のために観念要素の更改をやらせてるんだ。
ま とにかく 道を求める初めの心にまつわるいろいろの説明というのは 今言ったとおり複雑なものがある。
十牛訓一 <尋牛> 終
〜続く〜
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