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シニアの放課後
<心に成功の炎を>56
2018年06月11日
テーマ:中村天風<心に成功の炎を>
みんなねえ 利口そうな顔してらっしゃるんだから それぐらいのことは ご存知のはずだと思うんだけど お聞かせすると<ああ 気がつかなかった そこにあったのかい>というようなことを 何か忘れ物をしたような気持ちで持って気がつく人があるんですよ。
昔の言葉にも<道は法をもって達するを得る>といいますが こんなことは筋道がわかると何でもないんですよ。
もちろん 今までに聞かれた<反射神経の調節法>というような方法だって 聞いてしまえばなんでもないんだけれども わからないと 心の受けた感覚や感情の衝動 ショックを どう努力したからって パーッとすぐ神経系統の全体に受け入れちまう。そうしてもう あたら健康に生きられる自分というものを 哀れ惨憺たる状態にしてしまうというような 自己失敗をしてしまうんです。
わかってしまえば何でもありゃしない。今度はもうどんな感覚や感情的なショック 衝動がきても 押し寄せてくる高波を堅固な防波堤で防ぐと同じように 腹だけでパッとそれを受けとめることができるようになってしまっているでしょう。
それと同じようなもので 認識力の養成ということも 聞いてしまえばなんでもないことなんですよ。それは
第一に <官能の啓発>
第二に <精神内容の浄化と整理>
第三に <神経性活力の鼓舞>
これだけのことなんです。<なあんだ そんなことか>と思うでしょう。<なあんだ そんなことか>と思うことを やってないんですよ。
この中の第二番目と第三番目は もうすでにご理解がいってることと思います。二番目の<精神内容の浄化と整理>というのは <観念要素の更改>と<積極精神の養成>のことだよ。三番目の<神経生活力の鼓舞>とは<神経反射の調節>と同じことだ わかるね。
そして第一番目の<官能の啓発>ということが まだ一言もふれていないから これをよおくわかるように説明したいと思うが<官能の啓発>という言葉だけだとわからないんですよ。俗語でいうとすぐわかる。
<官能の啓発>というのは つまり<勘>をよくするということなんです。勘をよくするというのをわかりやすくいえば<五感の感覚の機能を正確 優秀にすること>なんです。
だから 勘をよくしようと思ったらば 五感の感覚の機能を正確 優秀にするように ふだん常日ごろ 適当にこれを訓練することが必要なんだ。ただボーッと 生きていられるから生きているじゃいけないんです。
もっとも 訓練しなくても生きていられうもんだから 訓練しなきゃならない必要を感じない。訓練しなくてもさして不自由を感じないという点から あるいはボーっと生きてしまってんじゃなかろうかとも思われる。それはあなた方すべてがそうだというんじゃなくて 私がそうだった。
しかし 考えて見ましょう。多く言うまでもなく 人間はこの五感というものがあればこそ こうして満足に生きていかれる。そうでしょ。目や鼻や舌や耳や体に備わってるそれぞれの特殊な感覚作用というものがあればこそ とまれかくあれ こうやって無事に生きていかれるんだ。
そして この五感という感覚器官があればこそ 外界の一切の事象を自分の心に受け入れて そして自分の人生というものをまた守っていくということもできるわけだ。
だから 万が一 この五感の作用というものがチョイとでも不完全だというと その不完全さが必ずその人生に大きな障壁を及ぼすこともわかりきった話じゃないか。なぜかといえば 完全に外界の消息を自分の心に受け入れることができなくなってしまうもの。すると もう多く言うまでもなく 当然の結果として 心の認識力もまた完全に働かなくなる。言いかえれば 認識力が十分にその作用を発揮しないことになってしまう。そうなったら 万物の霊長は 名ばかりになっちまう。
だから こういう極めて簡単なことだけを考えてみても 人間は何をおいても まず第一番にこの五感という感覚器官の作用をできるだけ研ぎあげて完全にするということが一番肝要だと気がつかなきゃならないんだが たいていの人が気がつかずにいるんだよ。
気がつかずにいるどころか 勘の鈍いことを自慢するわけじゃなかろうけれども はたから聞いていると 見栄にしてんじゃないかと思うような人があって<私は どうも物覚えが悪いんですよ>とかね。もっとおかしな人になると<私はどうも どういうものですか そそっかしいので>とか<すぐ物を忘れてしまうんです>とか 平気でいってる人がある。そういう人は<私は大まぬけでございます>と書いた札を首からかけときなさい。
いま聞いたような話をチョイとでも考えてみれば たとえどんなことがあろうとも そういうことは言うべきではないということに気がつくはずだがね。
幸いにあなた方は とにかくまあ 人並みの五感感覚をさほど でこぼこなくもっていらっしゃるけれども もっていらっしゃるために もしもこの五感の感覚器官が与えられなくしてこの世の中に生まれたらどうだろう ということなんか考えませんわね。しかし チョイと考えてごらん。
―続くー
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