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<心に成功の炎を>44 

2018年05月28日 ナビトモブログ記事
テーマ:中村天風<心に成功の炎を>

 第五章 理性心と霊性心 <209頁>

 前回に引き続き 今日は精神のほうに付随している二つの心 理性心と霊性心についてそれぞれ話そう。
 まず理性心から。この理性心は人間だけに与えられた心で 物のよしあし 間違い 正しいを見分ける心なんです。
 むつかしくいうと ものの善悪 是非 邪正 曲直というものを分別してくれる心です。ははあ おれの今考えていることは間違っているなとか これはこういう考え方をしちゃいけないなというようなことを とにかく考えてくれるためにあるんです。
 ところが 世の中の多くの人々は 理性だけを標準として ああでもねえ こうでもねえと考えて 心のもつれの一切を解決しようとする。また そういう力を理性心が持ってるがために 人生の一切はこの理性に任せて生きることが また生きてこそ一番安全だと こういうふうに思い違いしているんです。
 そういわれても まだわからずに思い違いしている人ありゃしない? それに頼って生きるために理性心が与えられてあるというふうに思ったら これは思い違いなんです。
 たとえば 夜眠れない人が医者に向かって
 <先生 せっかくお薬いただいているんですけど どうもまた寝られなくなりました>なんていうと
 <しょうがねえなあ あんたは ほんとにもう。あのねえこの眠り薬というのは 程度があるんだよ。あんまりやるとね 今度は本当に永久に寝てしまうからね。そうなったら私が困るわ。薬はもうあげられないからね。 
 しかし 他人の命じゃないんだから。寝よう 寝ようと思うから寝られないんじゃないか。今夜からもう寝ることを考えなさんなよ。赤ん坊だって寝てるんだから。そりゃね いくら強情な人だって 死ぬまで起きっ放しに起きてるわけにいかないんだから。うっちゃらかしておけ そんなもの。うっちゃらかしておきゃ 眠くなりゃ きっと寝るからよ。なあ 何もあせらず騒がず 寝られなかったら 寝るときまで待つという気持ちで ねえ。徳川家康みたいな心になりなさい。鳴かなかけりゃ鳴くまで待とうほととぎす な わかったか お帰り>
 わかっているんです そのときは。<ああ そうだ。寝よう 寝ようと思うからいけない。寝られるときがくりゃ寝られる。鳴かなかけりゃ鳴くまで待とうほととぎすか ああ こりゃ うまいこと言うたな あの先生。じゃあ まあ家に帰って 今夜はそうしよう>と思って 床に入る。
 入るまではすっかりわかったようなつもりで床の中に入る。最初hのうちは 眠くなったら寝ようと思ってる。ところが いつまでたっても眠くならない。夜中の一時になっても まだ眠くならない。二時になっても まだ眠くならない。三時になった どうしよう。眠くなるまで待てと言われながら 待ってられませんよ これ。いつ眠くなるんだろうというとき もう待っていやしないもんね。
 こういうふうに 理性でいくら禁止 抑制しても 心のほうはいうことを聞いてくれないんですよ。理性っていうのは 信頼できる絶対的な力を持ち合わせていないんですから。
 それをわからずにいるから 言ってる人もわからなきゃ 聞いてる人もわからないというふうになってしまうんです。学者と教わる者の間もそういう関係で 教えてる学者もわからないんだから 教わってる人もわからない。これは本当なんですよ この今の世の中は。
 理性だけを頼りに生きるということは ちょうど竹ざおを長くして 空の星を落とそうとする計画と同じなんです。

 これは東京での話ですがね 患者のほうの名前は有名な人で お医者さんも有名な人です。お医者さんの名前だけは まだ生きていますから 言うのはかわいそうだからやめますが 患者のほうは 吉井勇<歌人>の弟で いま京都にいる吉井千代太という人です。
 この人が激烈な不眠症にかかって 私のところに来た。その自分の私の家には 14,5の病室があって 地方の人はここへ泊まらせてました。
 そうすると ある夕方 その千代太君が用事で出かけ 帰ってきて 玄関に入るとき いままで私と応接間で話していた一人の人間が玄関から出て行った。 
 そうすると 千代太君 その後ろ姿にじいっと見とれていた。
 <先生 あの人 某大学の教授で 有名な精神科学の大家でしょう>と聞くから
 <そうだよ>
 <あの人のところに 私 入院してたんですよ>
 <そうかい。ああ そうだろうなあ。あの人もこういう方面の仕事してるから>
 <あの人が先生 何しに来てるんですか ここに>
 <あのひとかい。ちょっと用があって来てるんだ>
 <ほう そうですか。何か相談事ですか>
 <うん ちょっと相談事>と 私は本当のことは言わなかったんだ。
 そうしたら 受付に行って受付の人に聞いちゃった。
 <あの人 ときどき来るんですか>
 <このごろ毎日来ます>
 <何しにきてるの?>
 <不眠症にかかってる> 
 <ええっ それでおれはあそこに半年もいて治らなかったはずよ>
 これは偽らざる現在の世相なんだ。知らないんだもん しょうがないやなあ。
 いまの学者は一様に 学者ばかりじゃない。学校の先生だって 先輩だって <すべて人生は理性で判断なさい。何のために人間だけに理性が与えられてある。いいこと 悪いことの判断は理性がするんだ。
理性がしたことを 頼りにして生きろ。そうすりゃ間違いないから>と言う。とんでもないことなんですよ。
<1行空く>

ー続くー



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