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シニアの放課後
<心に成功の炎を>16
2018年04月25日
テーマ:中村天風<心に成功の炎を>
この病で助からないということは覚悟しなきゃならないものの 今すぐ死ぬわけではないんじゃないか。死刑の宣告のときには もうすぐ 何分かの後 死ぬであろうような土壇場に立っているのに 心がたいした動揺を感じなかった。ところが 今 なんだ。急に死ぬわけじゃない。死ぬだろうということだけのことだけでもって 落ちつきを失っちゃった おどおどした 気の弱い人間になっちゃたというのはどういうわけなんだろう。こう思ったのが 私がそもそもの人生というものを考えるきっかけなんです。
当時 私の頭の中にはぜんぜん学問らしい学問はなかったんですからね ただ 基礎的な方面の医学的知識だけはあったんですけれども それ以外 何にもありゃしない 自分の頭の中に。その何にもない頭の からっぽの頭で考えたんですから そらまあずいぶん骨が折れましたよ。
もとの心の半分でも自分の強さをとり戻したいための気持で 世界的に指折り数えられる学者 医者に会いたいがために密航までして それで必死の思いで そういう学者 医者に会ってもだめ。救われるようなことをちっとも言ってくれないんですから。その間に病はどんどん悪くなっちゃう。とうとう諦めて どうせ死ぬんなら日本で死のうと思って日本に帰る途中 あのヨガの聖者 カリアッパ師と運命的ともいえる因縁で出会った。そしてインドに連れて行かれて3年 難行苦行の末用やっと悟れたんです。
ですから 目の不自由な人が暗やみで落したものを探すと同じような状態の研究を私は続けてきたんです。そりゃもう お話したら話しきれないほど いろんなことを考えて考えて考えぬいた末に ここではわずか1時間かそこいらのことですが お話がわかるまでには そりゃ何十年かかっているかわからないんですよ。
それで結局 自分の心が自分の思うようにならないという原因がいちばん先にわかった。
これは私の霊感から得たヒントであります。それは何かというと 考えちゃいけない 思っちゃいけないということを万々知っていながら それを考えてしまうのは そういう場合にこれをピタッと止めていく<意思の力>が弱っちゃったからだと気づいたんです。
怒っちゃいけないときに怒っちゃたり 悲観しちゃいけないときに悲観したり 心配しちゃいけないと思うときに心配したりするのは 意志の力がこれをコントロールしないからなんです。
これはたとえ話でいうと 心という領域を取り締まる最高の権利を持っているのが意思なんであります。だから 心の弱い人は みんな意志が弱いということ それが嘘でない証拠 試してごらんなさい。
とくに 大言壮語したり から威張りしたり えらくもないのにえらそうなことを言ってる人は 意志がちっとも働かないから 自分のただそのときの付け焼刃的な気分だけでもって自分をカモフラージュしてるんですよ。
タバコ一つやめるんだって 意志の力が弱かったらやめられないでしょ。
そこで私は考えたんです。<昔の私はこんなに意志の力の弱い人間じゃなかったんだけれども 何で今のおれはこんなに意志の力が弱くなったんだろう>と。
無学の当時というものは頭の中にそういうことを考える知識がなんにもありませんもんね。しかし だんだん研究していく間に 意志の力の弱ったのは そこに3つの大きな原因があるということがわかった。
どういう原因だというと
第一に潜在意識の中に非常に消極的な観念要素が知らない間にうんとたまっちゃたということ。
第二には 平素の人生を生きる場合の精神生活態度が これも気がつかないとは言いながら いつも臆病で引っ込み思案的なものであったということにヒョイと気がついた。
それはね たとえばこのごろのような冬の寒い日なんかに 部屋の中から表に出て 寒い風なんかにフーッと体をあてるときに 弱かった時代なんてものは ああ こんな風に当たったら大変だ すぐに風邪ひいちまうぞというような気持をもっていた。今なんか ときどき真っ裸になって パーッと寒い風に吹かれて ああ いい気持だと思うような気持と反対だもんね その時分は。
そりゃもう わずかなことでも裏から考えてる。右向いても 左向いても みんなそういう弱い態度の人間が多いでしょう。だから <ああ 人間というものはこういうものなんだ>と思っちまいますがな。
たとえば 朝なんか薄着して顔洗ってると<寒いからお着なさい 風邪ひく>なんていわれると ああ そうかと思って すぐ着ちゃう。 それが親切な言葉で 本当の言葉だと その当時は思っていたもの。
そして第三番目は 人間が生きていく刹那 刹那に 避けえられない感情や感覚のショックや衝動が 神経系統の生活機能に手ひどく悪い影響を与えているということ。
この三つです。これが結局 結果において意思を弱くした原因になってるということに気がついた。
―続くー
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