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人生日々挑戦
「桃太郎」
2013年09月25日
テーマ:人生
まんが日本昔ばなしでお馴染みの桃太郎。桃から生まれた桃太郎は、おじいさんとおばあさんに大事に育てられ、やがて立派な若者に成長する。桃太郎は、おばあさんからきびだんごを貰い、イヌ、サル、キジを従えて、鬼ヶ島まで鬼を退治しに行くという物語だ。
しかし、桃から生まれたのは、桃太郎ばかりでない。
先日、2020年オリンピックが56年ぶりに再び東京で開催されることに決定した。第一回目の東京オリンピックが開催された1964年当時はもちろん、その後も、トマトはうまくなかった。
それは、トマトは、その果実がまだ青い段階で収穫されていたことによる。
トマトを完全に熟するまで生らせ、それを収穫したものを出荷すると、輸送途中や店頭に並んでいる間に傷んでしまうからだ。
そうした青い段階で収穫し、輸送途中で赤く色づかせる方法では、味や香りも不十分なトマトが消費者に渡ってしまうことになる。トマトがうまくないのは、当然だった。
うまいトマトを消費者に届けるにはどうするか。それには、トマトを完熟するまで生らせてから収穫したものが消費者に届いても傷んでいない、という状態ができればいい。
そのためには、完熟しても実が硬いトマトを作り出せればいいことになる。
その当時のトマトは、消費者が生食するものは、皮が薄く実が柔らかいもの、加工用として缶詰やケチャップにされるものは、皮が厚く実が硬いものであり、いずれにしても赤色のトマトだった。
皮が薄く実が硬い完熟系のトマトは、やがて完成して発売されたが、あまり売れなかった。それは、依然として赤色のトマトだったからだ。
赤色のトマトは、皮が厚く実が硬い加工用のトマトだというイメージがあり、消費者に避けられてしまうのだ。
赤色の皮が薄く実が硬いトマトは、完熟でうまく、これこそ生食に適するするものであるにもかかわらず、赤色のトマトは実が硬く加工用というイメージゆえに売れない。微妙なものだ。
こうなればどうするか。皮が薄く実が硬い完熟系のトマトの色は、赤色であってはならない。だから、赤色でない別の色にしなければならない。
赤色でないトマトたって、青色はダメ、緑色もダメ、もちろん黒はダメ、黄色は中途半端でダメとなる。やはり、食欲をそそる色で、赤色でなくとくれば、ピンクしかない。
というわけで、ピンクトマト育成プロジェクトXが結成された。ピンク色のトマトで、皮が薄く実が硬い完熟系のトマト。もぎたての甘さと輸送に耐え得る硬さを合わせ持つ。
しかし、こういう言わばいいとこ取りのトマトが簡単にできるわけがない。あちらを立てればこちらが立たずだ。
しかも、今みたいなバイオ技術が発達していない時代である。Aのいいとこ取りとBいいとこ取りをかけ合わせて実を生らせ、Cを作り、ということを幾通りも実験していくのだ。膨大な時間がかかる。
ピンクトマト育成プロジェクトXの面々は、寝ても覚めても、「ピンク」「ピンク」「ピンク」だ。
大阪のオバちゃん風の奥さんが心配して聞いた。
「お父ちゃん、会社でエラく大変そうやけど、なにやってんのん」
「ピンク」
「ピンクって、なんのピンク?」
「ピンク」
「ピンクだけ言われても、さっぱりわからへん」
「ピンク」
プロジェクトXのオジちゃんは、何を聞かれても、「ピンク」しか言わない。ピンクトマト育成プロジェクトXは、社運をかけた大大大プロジェクトXだ。当然、企業秘密だからだ。
トマトの実の硬さ、形が崩れない程度のぎりぎりの果肉の厚み、糖度6度以上、均一に熟していくこと、酸度とアミノ酸の含量など、山ほどあるハードルを克服し、やっとのことでプロジェクトXは、所期の目的を達成した。
ピンク色のトマトで、皮が薄く実が硬い完熟系のトマトの完成だ。皮が薄くて甘味があり、クセが少なく、香りも弱く、桃色系トマトと呼ばれる。
プロジェクトXの目的達成は、1983年のことだ。苦節十年という言葉があるが、うまいトマトを消費者に届けるにはどうするかという着想時点から数えれば、桃色系トマトの完成までは、苦節二十年だ。
それだけ、大変なプロジェクトXであった。
そして、1985年、完熟出荷の桃色系トマトは、大々的に売り出された。「誰もが知っている、フルーツ感覚の名前にしたい」ということから、「桃太郎」と名づけらた。「桃太郎」トマトの誕生である。
だから、桃から生まれたのは、桃太郎ばかりでない。桃太郎トマトも桃から生まれたことになる。
まんが日本昔ばなしに出てくる「桃太郎」は、桃太郎が、おばあさんからきびだんごを貰い、イヌ、サル、キジを従えて、鬼ヶ島まで鬼を退治しに行くという、おとぎ話だとばかり思っていた。
しかし、最近、実は、もっと深い意味があるという説があることを知った。
全国に伝わる桃太郎の物語は、実は、大和朝廷が樹立した大和政権による全国統一の戦いと深く関わっているという。
昔々、吉備国(きびのくに)で吉備津彦命(きびつひこのみこと)と温羅(うら)が戦ったそうだ。
吉備国は、現在の岡山県全域を中心とする古代日本の地方国家である。その吉備国に、朝鮮の百済からやって来た王子が山城を築いて住んでいた。王子の名は、温羅という。
吉備津彦命は、古代日本の皇族で、孝霊天皇の第3皇子だそうだ。
温羅は、山から下りてきて婦女子をさらったり、物品を強奪したりと、たいそうな悪さを働いておったそうな。
そこで、吉備津彦命は、民衆を助けるため、温羅と戦い、温羅を打ち破った。
この吉備津彦命が桃太郎で、温羅が鬼である。
しかし、事の実態は、どうやら、吉備国で勢力を増していた温羅を是が非でも全国統一を成し遂げたい大和政権が吉備津彦命に命じて成敗させたことであるらしい。
そのことを正当化するために、温羅が悪さを働いていたという話を作り上げたというわけだ。
そして、大和政権が全国統一を成し遂げると、「桃太郎」物語が全国津々浦々まで伝承され、人々を楽しませるという形で、桃から生まれた「桃太郎」も全国制覇を果たしたことになる。
1985年から、完熟出荷の桃色系トマトとして大々的に売り出された「桃太郎」トマト。「桃太郎」トマトは、トマトはうまくないという、それまでの評価を劇的に一変させた。
トマトのおいしさのポイントは、糖による甘み、有機酸による酸味、グルタミン酸によるうま味の3要素がバランスよく高く含有されていることだという。
そのバランスの追究も含め、よりおいしいトマトの開発は、終わることなく、日々続いているそうだ。
この20年間で、「桃太郎」トマトの兄弟品種は25品種を数えるという。
今や、全国津々浦々まで「桃太郎」トマトの栽培が展開されており、1年中、うまいトマトの味を楽しむことができるようになった。
桃から生まれた「桃太郎」トマトは、全国津々浦々までおいしさを届けるという形で、全国制覇を果たしている。
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