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自然はともだち ひともすき

真夏の夜の夢 

2013年07月31日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し





祭りの喧騒から夜の海辺にひとり逃れてくると、渚に寄せる波音が安らかに全身を包みこんでくれるようでした。
遠くで盆踊りの歌と踊りを楽しむ人びとのざわめきが、風に乗って流れてきます。
夜ごと空襲警報のサイレンと、灯火管制の暗闇におびえて暮らしたことが夢のようでした。


「お嬢ちゃん、ひとり?」
後ろから声がしました。
振り向けば、着物姿で書生風のがっしりと大柄な青年が。

白地に紺絣、三尺の帯、うちわ片手になんだか小説の主人公のよう
多分、帰省中の学生だったのではないでしょうか
反応に戸惑う私の横ですとんと腰をおろし
手にしたうちわでときどき風を送りこみながら、自分も黙って夜空を見上げています。


(変わったひと…)
どちらも同じ思いなのか、黙って並んだまま長いこと星を眺めていました。
いくら本を読んだところで、中学生の私に人をみる目なんてありません
純粋に自然な行為の中にいる感覚でした。

「お嬢ちゃん、ひとり?」 
「お星さまをみるのが好きなのね」
語りかけられた言葉もたった二度きり。


いつの間にか踊りの歌声も途絶え、静かな夜に波音だけが淡くリズムを立てています。
思わぬ時の経過に気付いて立ち上がると
送って行くよといった風に続いて立ちあがり、少し離れて歩き始めたのも自然なことに思えました。

M町のわびしげな灯りが続く通りから、暗い横道に入った先に自宅がありました。
「さようなら」
通りの角へ来て始めて口が開き、そのまま家まで駆けました。
そのとき青年がどんな表情をし、アルトの声は何んと答えたのか、
私は知りません。


次の年もまた次の夏も、惹かれるように一人で浜辺に行きました。
でも顔さえ覚えていないあの青年は、それきり二度と現れることはなく
寂しさばかりが溢れて来るのに驚きながら
思春期の哀しみらしきものを初めてそれと気づいたのでした。


激動の時代、天地鳴動して価値観は逆転しても、まだ人を信じる心は残っていたのでしょう。
あの浜辺は、年ごと浸食されて堤防が立ちほとんど昔の姿は残っていないと聞きました。

(会えなくて、よかった…)

幼い思い出は今もときどき心の片隅から微苦笑とともに顔を出すのです
埋もれた宝石みたいにキラ、と小さく光りながら。

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