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人生日々挑戦
津軽と南部
2013年07月29日
テーマ:人生
青森県の地図と鹿児島県の地図は、よく似ている。
鹿児島県は、西方に薩摩半島、東方に大隅半島を抱え、薩摩半島と大隅半島に挟まれた湾が錦江湾である。なお、鹿児島県は、その北方で熊本県と宮崎県に接している。
これに対し、青森県は、西方に津軽半島、東方に下北半島を抱え、津軽半島と下北半島に挟まれた湾が陸奥湾である。なお、青森県は、その南方で岩手県と秋田県に接している。
鹿児島県の地図を半回転させて青森県の地図に重ねれば、大隅半島は津軽半島に、薩摩半島は下北半島に重なる。そして、陸奥湾と錦江湾が重なるのだ。
こういう具合に、地図上はよく似た両県だが、明治維新での廃藩置県の前後の地域事情という点では、決定的に違っている。
鹿児島県は、明治維新の前は薩摩藩一藩であるのに対し、青森県は明治維新の前は津軽藩の全域と南部藩の一部の地域であった。
逆に言えば、明治維新の前の南部藩は、その一部が青森県になり、残りの部分が岩手県になった。津軽藩は、そのすべてが青森県になったのだ。
つまり、鹿児島県は、すべて旧薩摩藩の地域から成っているのに対し、青森県は、旧津軽藩の地域と旧南部藩の地域から成っている。
明治維新での廃藩置県の前後の地域事情が日本全国の各都道府県でどうなっているのかは分からないが、青森県のような例は珍しいのではないだろうか。
青森県は、旧津軽藩の地域と旧南部藩の地域から成っていることから、旧津軽藩の地域は津軽地方、旧南部藩の地域は南部地方と呼ばれる。
青森県の中央を走るのが奥羽山脈の八甲田山系だから、青森県は、八甲田山系によって、日本海側の津軽地方と太平洋側の南部地方に分けられる。
こうして、津軽と南部が極めて重要なキーワードになる。そして、なにかにつけて津軽と南部とでは異なる。
青森県では、津軽が日本海側、南部が太平洋側だから、気候がかなり違う。
津軽地方の人つまり津軽人は「津軽衆」、南部地方の人つまり南部人は「南部衆」と呼ばれる。津軽衆が使うのが津軽弁、南部衆が使うのが南部弁だ。
津軽衆と南部衆とでは、気質が違う。両者の別を短い言葉で表現するのは難しいが、あえて表現すれば、津軽衆は威勢がいいのに対し、南部衆はおっとりしていると言うこともできるだろう。
津軽弁と南部弁とでは、イントネーションがまったく違う。
私が若い頃、東京での2年間の銀行員生活を辞め、青森に帰って再就職し、仕事で初めて八戸に電話をした時のことだ。
当然のことながら、私は流暢な標準語だ。
そうしたら、話の途中で相手の八戸女性が泣き出した、というふうに私には思えた。
全然泣いてはいないのだが、八戸女性の南部弁のイントネーションが津軽衆の私には泣きながら話しているように聴こえるのだ。
大学生活を終えて東京で就職した津軽衆の私にとって、電話で南部衆と話をするのは初めての経験とは言え、八戸女性を泣かせるようなひどい物言いをしたはずはないが、なぜ、ということで、相当なカルチャーショックを受けたものだ。
また、津軽弁と南部弁とでは、言葉の表現が違う場合がある。
例えば、「だめ」ということを津軽弁では「マイネ」、南部弁では「ワガネ」と言う。例示すれば、次のようになる。
標準語 だめだめ、そういう言い方はだめだめ
津軽弁 マイネマイネ、そういう言い方はマイネマイネ
南部弁 ワガネワガネ、そういう言い方はワガネワガネ
ところで、津軽弁でも「ワガネ」という言い方はする。ただし、津軽弁の「ワガネ」は、「分からない」という意味である。
今は、小学校でも中学校でも、先生は標準語で話す。しかし、私らの頃は、必ずしもそうではなかった。だから、南部衆の先生が津軽の中学校に赴任した場合、ややこしいことになりかねない。
南部衆の先生が言う。「君たち、ワガネワガネ、そういう言い方はワガネワガネ」
しかし、津軽衆の生徒たちには、南部弁の「ワガネ」の意味が「だめ」であることが分からない。南部衆の先生の言う「ワガネ」の意味を津軽弁の「ワガネ」の意味である「分からない」ととらえてしまう。
南部衆の先生は、「君たち、だめだめ、そういう言い方はだめだめ」と言っているのに、津軽衆の生徒たちには、南部衆の先生が「君たち、分からない分からない、そういう言い方は分からない分からない」と受け取ってしまう
津軽衆の生徒たちは、南部衆の先生が「だめ」だと言っているとは、つゆも思わないから、言い方つまり説明の仕方を「分かってもらえるように」変えることにエネルギーを費やすことになる。
南部衆の先生と津軽衆の生徒たちとの両方が事の本質を理解する瞬間は、やがて来る。
その瞬間は、爆笑である。
今、NHKの大河ドラマ「八重の桜」が熱い。明治維新が起こったのは1868年だ。
それから、今年で145年が経とうとしている。この間の日本のさまざまな出来事や歴史を考えれば、145年は長いようでもあるし、たったの145年と思えたりもする。
145年を経た今、145年間をかけての津軽と南部とのさまざまな面での相互理解や融和が進み、津軽と南部との間に、青森県民としての違和感は、ある一点を除いてない。
そう、お分かりのように、一点とは、津軽弁と南部弁である。
おそらく、あと100年経っても、津軽弁と南部弁は、それぞれのアイデンティティーを保ち続けているだろう。
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