エッセイ:
「67になっても たまにはデートしたい」
一.バイアグラの助け
私は現在七十。小さな会社を経営している。
小説とはウソを本当らしく書く事であるらしいが、
体験を書いてみる。私は日頃から本当をウソらしく書
く癖があるから、本当の話を書いても、人は「あれ
って、小説なの?」と疑う。そうであれば、私にも小
説が書ける事になる訳だ。
*
その昔機械の販売で私はセールスマンとしてそこそ
こ成功し、それが縁で会社を興し、社員二十人程の会
社になっている。吹けば飛ぶような零細企業だが、も
う二十年以上経ち、それなりに業績は安定している。
事件は、三年前の六十七で起きた話である。
手慣れた毎日の生活であっても、日々変化はある。
面白いとかワクワクする話ーーーと言えば、昔から配
偶者に内緒と相場は決っている。男は内緒が大好き
で、当時六十七の私とて、未だバイアグラの助けで充
分男の内だから、例外ではない。
が、共同経営者の配偶者と毎日鼻を突き合わせて仕
事をしているとなると、ワクワクする機会はそんな
に多くはない。彼女が、金庫番として経理をしっかり
押さえて君臨しているからである。
となればーーーお察しの通り、社長と言えども、ワ
クワクする為に使える軍資金には自ずと限度がある。
小遣いの額を申せば、恥ずかしながら月間五万円ぽっ
きり、昼食代も込み込み。この世知辛さで、一体社長
と呼べようか?
誰かを囲って力一杯抱き締めるなんて芸当が出来る
筈も無い。代わりに精々自宅で犬を抱き締めるか、道
端で電柱にゴンとぶち当って抱きつき、頭にコブをこ
しらえる位いなもの。
これでは、一体何の為に苦労して社長になったのか
訳が判らないーーーと日頃から恨めしく思っていた。
そんな風に人生は不便なものだが、諦めるには未だ
早い。昔から悪知恵が豊かで、いやいや経営者として
戦略が豊かと言って欲しいのだが、限られた資金を五
〜六倍に水増して使う才能がある。
この物語は、毎日の生活に飽き飽きして色々悪巧み
を考える際に、読者にも大いに参考になる筈である。
悪巧み、万歳! 無論、六十七のデートもその範疇に
入る。
(つづく)
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