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作品名 アカンタレの話(34) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(34)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/01/29 09:21:28

+++奥から押し出しの良さそうな、70年配と見え
る小太りのお婆さんが体をゆすりながら出て来た。流
石に私は、ギョッとなった。ああ、神様ーーー。

34.お婆さん

 しかし神様のお陰か、お婆さんは私の夢を壊さなか
ったのである。私よりやや年上なのかーーー? お婆
さんの話によると:

 もう40年程も前になるが、昔ここにあった古い茶
店の営業権を買い取ったそうである。買い取る前に、
自分たち夫婦は下界のJR須磨駅前で割りに繁盛した
カレー専門店をやっていた。ここの権利を買い取り、
木造の茶店を潰して今のコンクリートに立て替えたの
だそうである。

 喫茶室の奥に休憩の出来る小さな部屋はあるが、今
では昼間の営業が終了すると、店を閉めてふもとの高
倉町へ下りる。建物の裏手に私用の細い車道があっ
て、下った登山口の近所に本当の自宅があるのだと説
明した。夕方息子が山の上まで車で迎えに来てくれ
る。喫茶室の営業は土・日と祭日の昼間三時までだ、
と手短に説明してくれた。

 買い取った昔、元の木造の茶店の家族に、背の高い
娘さんが居なかったかと、試しに訊くと:
「ああ、居りましたね。綺麗な人で、確か加古川市の
方へお嫁に行ったと聞いていますよ」
「その人は今なら、私と同じ位の歳じゃない?」
「ああ今になれば、それくらいでしょうね。お幾つで
すか?」
「七十だよーーー」
「はあーーー」

「その娘さんとは、西須磨小学校の同級生でしてねー
ーー。余り昔の事で、名前は忘れてしまったけれど、
何という名の茶店でした?」
「ああ、木村さん(仮名)ですよ」

 名前を聞いて、私は驚かなかった。訊かなくてもち
ゃんと知っていたからで、「やっぱり」と思っただけ
である。記憶に登らないようにしっかり蓋をして、自
分が忘れた振りをしていたに過ぎなかったと気が付
いた。
(つづく)

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