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作品名 アカンタレの話(24) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(24)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/01/19 08:57:06

+++やり始めてみたら、ダニみたい
に机へしがみ付いていた陰気な技術屋
の仕事に比べたら、遥かに気が晴れる
仕事だと思うようになった。

24.見晴台
 四十五になった頃、初めて明石と須
磨の間を結ぶ高速道を須磨方面へ向か
って走った。この高速道は私の子供の
頃には存在しなかったが、須磨の料金
所の直ぐ手前に長いトンネルがある。

 昨今は明石海峡大橋経由で四国方面
からの車も合流するから、トンネル内
は混み合う時が多い。通称阪神高速第
二神明道路といって、今では一日中が
車のラッシュアワーである。

 セールスマンに成り立ての当時、今
から約25年前だが、先の高速道は空
き空きな上、スピード制限も無かった
気がする。お巡りさんが居ないのを見
澄まして、セールス活動で毎回時速百
キロで、明石・須磨間など光より早
く、たった十五分という便利さであ
った。

 何度か同じ道を走り抜ける内に、須
磨の料金所前のトンネルへ入る手前
で、右手に眺める山々が、私が若い頃
に登りなれた須磨アルプス連峰の丁度
裏側なのだと判った。潮見台町は連峰
の峰を挟んで南に在り、高速道は北側
に位置していたのである。

 同じ故郷の山々を眺めていたのだ
が、山容と風景は全く印象が違って
いた。昔潮見台側から眺めたり登った
りしていた山の方が、険しく樹木も
多く、もっと雄大に感じていた。対して、高速道側から見上げる同じ山並みは、変化が乏しく樹木も少なくて面白
みが無かった。車の速さもあって、山
麓をあっという間に走り過ぎるので
ある。

 セールス活動で同じ山麓を何度も通
過する内に、須磨アルプス連峰の左端
の山の頂に木々に埋もれて、小さく白
いものがあるのに気づいた。数キロ遠
方からの遠目なのではっきりしないが
見晴台らしい。それは須磨の料金所手
前のトンネルの斜め左上方向に位置し
ていた。トンネルに近づき過ぎると木
々に邪魔されて反って見えないが、数
キロ手前の位置から、昼間は小さく光
って見える。

 それが何時からそこにあったのか、
新しく作られたのか判らない。大概の
山の頂上には見晴台くらいはあるか
ら、車窓を流れる平凡な景色の一つと
して見過ごしていたのだろう。

 同じ景色を眺める内に、あの見晴台
は故郷の須磨アルプスの一部なのだ
から、「何時か機会があれば」登って
みようと、運転しながら時々ぼんやり
考えた。通る度に、遠方に白く光るも
のを飽かず眺めた。 

 しかし、セールスマンは多忙であ
る。給料は安かったが、やっとありつ
いた「機械は要らんかねえーーー」の
仕事に、生活が掛かっている。畑違い
の仕事だったから、早く一人前になろ
うと気持は死に物狂いであった。

 気忙しい中で、休日であっても仕事
以外へ気を回すゆとりとて無く、「何
時か機会があれば」は何時までも巡っ
て来なかった。
(つづく)

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