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痩田肥利太衛門残日録その二

浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)鞘当(さやあて)の場の渡り台詞(わたりぜりふ) 

2022年12月02日 外部ブログ記事
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鞘当

刀由来のことばについて
yaseta.hateblo.jp
刀由来のことば「鞘当て」から2006年に神田神保町の古本屋で購入した「芝居せりふ集」を思い出し読んでみました。
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不破伴左衛門と名古屋山三(さんざ)がすれ違いざまにこじり(鐺)が当たり、互いに言い合う七五調の歯切れの良い「渡り台詞(わたりぜりふ)」にすっかり、はまってしまい、絵を描いてしまいました。
(渡り台詞(わたりぜりふ) : 歌舞伎の一続き(ひとつづき)の台詞(せりふ)を数人で分けて順次に言うもの)
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「鞘当の場」は文政6年(1823)鶴屋南北の「浮世柄比翼稲妻(うきよ づか ひよくのいなづま)」を脚色した長い歌舞伎の一場面でしかないので全体像を知りたくなり、調べてみました。
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しかし、数日の調査では内容全体を記載した資料やWeb記事を見つけることはできず、また、「鞘当の場」の一場面の資料でも台本の一部分とそれを解説したものでした。
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おそらく江戸時代から全部通しで上演されることは少なく、人気の幕や場だけが演目として残り、現在に受けついできたからだと思われます。
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結局、全体像はわからず、説明は明治31年(1898)10月歌舞伎座で上演したときの「鞘当の場」(参考2)の渡り台詞と概要だけになってしまいました。
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【浮世柄比翼稲妻について】
文政6年(1823)鶴屋南北作の「浮世柄比翼稲妻(うきよ づか ひよくのいなづま)」は全9幕19場の長丁場の歌舞伎ですべて上演されることはほとんどないことがわりました。
ここでは「鞘当の場」の渡り台詞(わたりぜりふ)」の三分の二を取り上げます。
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【仲之町鞘当の場の概要】
*東海道境木(現在の保土ヶ谷区境木本町)の佐々木家の家臣:名古屋家と不破家
*不破伴左衛門(ばんざえもん)は名古屋山三(さんざ)の父山左衛門を殺害、伝家
 の名刀を盗む。
*名古屋山三は佐々木家の腰元「岩橋」と不義を働き、浪人となる。
*不破伴左衛門も岩崎に横恋慕していたことが知れて追放される。
*岩崎は山三の貧しい浪人暮らしを見兼ね吉原の遊郭に身を売る。
*吉原で評判の花魁「葛城(かつらぎ)大夫」となった岩崎を稲妻組の頭分となった
 不破は強引にわが物にしようとする。
*春爛漫の元禄江戸吉原仲之町大通りの引手茶屋上林の前で目関笠の二人がすれ違い
 ざまに鞘が当たり、口論となる。
*寛闊出立:かんかついでたち、派手な衣装や恰好、伊達男
*名古屋山三元春は明度が高い薄青色である縹(はなだ)色地に「雨に濡れ燕」の衣装
*不破伴左衛門は黒地に「雲に稲妻」の衣装
*白茶宇袴:しろちゃうばかま、白い茶宇縞(ちゃうじま、薄地の絹織物)の袴
*両者共に目関笠(深編笠)
*白柄組:水野十郎左衛門らの旗本が徒党を組んだその組の名称。
*伊達小袖:伊達な模様の小袖。
*陀々羅大尽:だだらだいじん、だだら遊びというのは湯水のように無茶苦茶にお金
       を使う人、客。
*往還:往来、大道。
*六法:六方、歌舞伎の歩きぶりの一つの芸で、元禄風俗をあらわしたもの。
*よしや男:派手な格好をした伊達男。
*上林:仲之町の引手茶屋の名前、上林の女将はお福。
*昔男の光る君:源氏物語の主人公光君のこと。典型的な二枚目の好男子。
*ひが目:めちがい。
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【鞘当の場の渡り台詞(わたりぜりふ)と長唄(ながうた)】
? ?花の雨、濡れに廓(くるわ)のあかつきに、
  傘(からかさ)売りの風流も、
  遠い昔の伊達姿、白茶宇袴(しろちゃうばかま)、鼻平太、
  土手の小室(こむろ)の行き合いに、手綱(たづな)とりんず、
  すがたかたちでぞめきは夜の花に鐘、そこ退き給え長刀。 
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不破:遠からん者は音羽屋(おとわや)に聞け、近くば寄って
   目にも三升(みます)の寛闊出立(かんだついでたち)。
   今流行の白柄組(しらつかぐみ)。
   通い廓(くるわ)の大門を、入れば即ち極楽浄土、
   虚空に花の舞いわたり。
山三:歌舞の菩薩の君たちが、妙(たえ)なる御声(みこえ)音楽は、
   誠(まこと)や天女の天下(あまくだ)り、
   花ふりかかる仲之町、色に色あるその中へ、
   ごろつき組か雷(いかづち)の、
不破:これを知らずや稲妻の、初(はじ)まり見たか不破が関、
   せきにせかれて目関笠(めせきがさ)、
   振られて帰(けえ)るか、
   雨に鳥、
山三:濡るる心の傘(からかさ)に、ねぐら貸そうよ濡れ燕、
   濡れにぞ濡れし彼(か)の君と、
不破:競(くら)べ牡丹の風俗は、
山三:下谷、上野の山かずら、
不破:西に富士が嶺(ね)、
山三:北に筑波(つくば)、
不破:思い競(くら)べん、
両人:伊達小袖。
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 ?色にいかめし、銀こじり、野暮は垣根の外構え、二万七百六十余塀(へい)、
  不夜城に三年(みとせ)の桜の色くらべ、意気地くらべや無理くらべ、
  気を春霞(はるがすみ)に二本柳(ふたもとやなぎ)、
  道の街(ちまた)の粧(よそお)いは、風情ありけり次第なり。
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山三:刀の鐺(こじり)、捕(とら)えし御方、
   こりゃ何とめさる召さるる。
不破:これやこなたへ御免なされい。
   身はこの廓(さと)に通いつめ、
   人も知ったる闇の夜に、吉原ばかり月夜かな、
   ことに夜桜まばゆくも、咲き揃うたる仲之町、
   この往還(おうかん)をよけずして、何で身どもがこの鞘へ、
   武士の 鞘当、挨拶さっしゃい。
山三:そりゃこの方より申すこと。大道(だいどう)広き往還を、
   我が物顔の六法は、よしや男の丹前姿、
   模様も雲に稲妻は、もしや噂のそこもとが、
不破:今この廓(さと)に隠れなき、稲妻組の関大尽。
   その名も高き富士筑波、心にたがえば闇雲に、
   抜けば玉ちる剣(つるぎ)の稲妻。
山三:その模様とは事変わり、雨の降る夜も風の夜も、
   通い廓(くるわ)の上林(かんばやし)、
   夜の契りも絶えずして、明くるわびしき葛城(かつらぎ)と、
   しっぽり濡れん濡れ燕(つばめ)、無法無体の行きちがい、
   避けて通すも恋の道。
不破:そこをそのまま通さぬが、稲妻組の達衆(たてしゅ)の意地づく。
山三:稲妻組の頭分(かしらぶん)、関大尽(せきだいじん)とお言やれど、
   実は不破の伴左衛門、包むとすれど物腰恰好(ものごしかっこう)。
不破:その声音(こわね)こそ覚えある、昔男の光る君、
   名古屋山三と見たはひが目か。
山三:面(おもて)を包む目関笠、取って貴殿の御面相(ごめんそう)。
不破:痩(や)せ浪人のこなたの面体(めんてい)、まずその笠も。
山三:貴殿の笠も。
不破:いざ。
山三:いざ。
両者:いざ。
不破:思うにたがわぬ名古屋元春。
山三:さ言うは不破の伴左衛門。
不破:絶えて久しき対面に、
山三:場所も多きに吾妻(あずま)なる、
不破:花の中なる花の頃、
山三:折よく此処(ここ)で、
両人:逢いましたなあ。
山三:今行き違いの鞘当が、縁となったるこの出合い、
   して、そこもとには用ばしあってか。
不破:貴殿に用とは別儀(べつぎ)でない、通いつめたる葛城を、
   身が相方(あいかた)に貰(もら)いたい。
山三:その儀ならば相ならぬ。
   一旦約せしあの女、たとえ刃金(はがね)がなまるとも。
不破:いいやなまらぬ某(それがし)が、刀にかけて葛城を、
   申し受けます貰(もら)います。
   さよう心得すみやかに。
山三:貰(もら)いかけられ侍(さむらい)が、しからば貴殿に進上と、
   申したけれどそりゃならぬ。
不破:ならぬとあれば看板の、雲に稲妻剣(つるぎ)の光り。
山三:貴殿の剣の稲妻より、その前方(まえかた)に山三めが、
   身に降りかかる濡れ燕。
不破:見事(みごと)御身(おんみ)が、
山三:おんでもないないこと。
不破:何を。
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【鞘当の場の結末】
*葛城を渡せ渡さぬと互いにゆずらず両人はついに刀を抜いて斬り合いになる。
*そこへ引手茶屋上林の女将お福が止めに入る。
*不破は一度抜いた刀を血を見ずに納めるのは武士の沽券にかかわるなどごねる。
*お福は互いに刀を取り替えそれぞれの鞘に納めて引き分けよと両人を納得させる。
*不破の刀は山三の鞘に、山三の刀は不破の持つ鞘にぴったりたりと納まる。
*通常、日本刀はオーダーメイドなので別の鞘に収まることはめったにない。
*山三は我が家から盗まれた刀であり、父の敵であることに気付く。
*山三は刀を納めたこの場ではかたき討ちはできないとまたの機会を待つことにした。
*両人はお福に礼を言い立ち去ります。
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ここで【鞘当の場】に幕が下ります。
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【参考】
1.「芝居せりふ集」、(編集)演劇界出版部、演劇出版社、1991.09.15
2.「名作歌舞伎全集 第九巻」、戸板康二、利倉幸一、(監修)河竹登志、(株)東京創元社、1969.04.25
3.「歌舞伎の名セリフ」、(編集)藤田洋、(株)、東洋書院、1988.11.28
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