落合順平 作品館

 北へふたり旅(1)   第一話 ベトナムがやってくる ? 

2018年11月18日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

 北へふたり旅(1)   第一話 ベトナムがやってくる ?

 野菜農家のパートとして働きはじめて、2年目の春がやって来た。
ここで働いているパートはぜんぶで5人。最年長は72才。
いちばんの若手は61才。
年齢層が高いと驚くことはない。
農場主のSさんは62才で、奥さんは60才。
それでもこのあたりの農家からみれば平均年齢は、若いほうにはいる。

 それほどまで日本の農業は高齢化している。
政府の統計によれば2018年、農業専従者の平均年齢は67才をこえた。
世間ではおおくの人たちがすでに第一線を退いている年齢にあたる。
このうち70歳以上が、3割をしめている。
年金世代のシニアたちが実は、いまの日本の食をささえている。

 60歳以上しかいないこの野菜農家へ、この春、救世主がやってくる。
ベトナムからの農業研修生だ。
2月のはじめ、やってくるはずだった。
しかし。
2月に入り10日が過ぎ、20日が過ぎてもベトナムは姿を見せない。

 「まだ来ないねベトナムからの研修生は。
 どうしたんだろうねぇ。ひょっとして予定がキャンセルに
 なったわけ?」

 「そうじゃねぇ。
 来日はした。しかしいまは千葉の施設で、日本語の教育を
 受けている。
 それがおわり次第、農場へ配属されてくる」

 昼休み。顔なじみになった農協のM君がやってきた。
かれの専門は農業用機械の販売と修理。
しかし。研修生制度や海外からの働き手事情についてみょうに詳しい。

 「研修生受け入れの管理団体、北関東アジア・ビジネスが
 研修している。
 あんたもよくしっているはずだ。
 ほら。なんだか胡散臭いおばちゃんだと言っていた、例の
 白いおばさんが所属している、あの団体だ」

 全身白ずくめで胡散臭いおばさんのことなら、たしかに記憶がある。
昨年の夏。40℃をこえるビニールハウスの中でナスを収穫しているときだった。
 
 表に車の停まる気配がした。
顔を上げると曇ったビニール越しに、白のハイブリッド車が
停まるのが見えた。
ドアが開いた。白い靴が降りてきた。
つづいてあらわれたスカートも純白なら、着ているブラウスも真っ白。
とてもじゃないが、ほこりだらけの農場へやってくる服装ではない。

 (なんだぁ?・・・全身白ずくめだぞ。
 何考えてんだ、一体どこの何者だぁ?
 埃だらけの場所へ真っ白で訪ねてくるなんて、正気の沙汰じゃねぇ)

 しかし。全身真っ白のおばちゃんはひるまない。
ビニールで出来たドアをあけ、「いるかしら?」と黄色い声を
はりあげた。
わたしはたまたま入り口ちかくにいた。農場主のSさんは奥にいる。

 「Sさんなら奥ですが・・・あのう、どちらさまでしょうか?」

 「いるのね。奥ですね。はい、わかりました」

 白いおばちゃんが狭い通路を、あるきはじめる。
どなたですかと尋ねたのに、聞こえなかったのか、返事はまったく
かえって来ない。
ホコリで白いナスの葉を手でかきわけながら胡散臭い人物が、
Sさんのいる奥へ向かって、ずんずん大股ですすんでいく。

 (2)へつづく



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