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第97回 昭和38年初夏 就職試験
2016年05月07日
テーマ:テーマ無し
高校3年7月、元町通りに買いものに行き、帰りにアルバイト先の洋装店に寄る。
店長であるおばさんに挨拶する。
「駅前の運送会社の社長さんが、『としこ君にうちの会社の受付で働いて欲しいんじゃ。あの笑顔を気に入ってな。』と言うちょってよ。」と、おばさんが話しかけた。
その運送会社からの贈答品の届け先や、他からの贈答品を運送会社に届けた時の挨拶が、丁寧で良かったと、大分前に聞いていた。
「私は、としこさんに東京の洋裁学院でデザイナーの勉強をして、うちの店で働いて欲しいと思うちょるんよ。」とも。
以前、店長が留守だった時のアルバイト中の出来事を思い出した。
「店長は留守。」と伝えると、お客さんが「いいのよ。店長には希望を言いにくいから、お姉さんに頼みたいんよ。」と言ったのだ。
おばさんが注文を受ける時を思い浮かべる。
注文表にブラウスの希望の襟と袖を描き、サイズを測り記入して、服地の端切れを貼っておいた。
おばさんが帰って来て、「急ぐようだったから、一応注文表をかいたけど、もう一度確かめて下さいね。」と伝える。
「ちゃんと、襟や袖が描けるんじゃね。」と感心したようだった。
「絵の教室で、よく見て描くように言われていたから、どうにか描けたんよ。」と応えたのだった。
おばさんは、私がデザイナーにと思ったかもしれないが、スタイル画なんてとんでもない。
働く農家の人や美容師さんを描くのは好きだけど、スマートな人を想像して描くのは、苦手で好きでない。
「デザイナーは無理だわー。」と言って、すぐ店を出たが、運送会社には心が少し動いた
家に帰ると、「隣の笠戸ドックの社長さんが、『船で通勤するのが大変だけど、うちで働かんかな。』と言って下さったんよ。」と母が言う。
「無理よねー。」と、私は船酔いの心配があるし、もし事務職ならミスが多いので迷惑をかけるから、気が進まない気持ちを込めて即答した。
「そーねー。」と、母も同感のようだ。
7月の期末試験が終るとすぐに、会社の就職試験が始まる。
私の高校2人採用の会社に、私ともう1人が採用試験に申し込んでいたので、その会社に出向く。
行ってみると、我校の応募者は3人で、他の2人ともよく知っている人で、驚いた。
2人には身内の人がこの会社にいるらしい事がわかり、私の採用は無いだろうと思えた。
すぐに、運送会社が頭に浮かんだので、がっかりした訳ではなくホッとする。
大会議室に机と椅子が並び、50人以上の男女高校生が着席し、試験問題が配られた。
私は、試験を放棄したい気持ちだが、答えは記入する。
が、ミスを調べる点検はしないことにした。
次に、面接試験会場に行くと、会社の面接官らしい数人が前一列に座り、3人の高校生が対面して着席。
初めに、面接官が「順番に自己紹介をして下さい。」と指示し、上から目線で観察しながら、自己紹介を聞き始めた。
3番目の私は、その丁寧な自己紹介を見聞きし感心しつつ、目の鋭い上司いる会社で、働きたくないと感じる。
無表情で自己紹介をし、趣味の「新舞踊」の流派は何かと聞かれたが、思い出せなかったので、「忘れました。」と応えた。
たぶん、不合格と思い、それがいいと気分よく帰宅し、母にいきさつを伝えた。
母は、隣の市への通勤も心配らしく、ホッとしたようだった。
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