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私家版・日豪の比較文化人類学 〜群れから抜け出した羊が見たもの〜
この木なんの木?
2011年01月21日
テーマ:テーマ無し
私たちのアパートから向かいの道路に出て50メートルほど行くと展望台を兼ねた小さな公園があり、その先に高さ25メートルはあろうかという大木があります。私たちの住むサンシャイン・コーストのバデリムは街路樹に緋色の花を付けるポインシアーナ(鳳凰木)が多くあって、このポインシアーナも堂々とした大木ですが、それよりはるかに高く横幅も広い巨木なのです。
こちらに移住してきた頃は、そこを通るたびに見上げてはその大きさにびっくりし、「この木なんの木?」と気になっていたのです。写真でお分かりのように横幅も広く枝が道路の反対側まで届いています。ある時、その葉を見て「これはゴムの木だ!」と思いました。よく日本でも鉢植えの観葉植物になっているあのゴムの木です。楕円形の肉厚の葉で、あまり細かく枝分かれしないおなじみの木ですね。全体が鉢植えのイメージをはるかに超えた大きさなので気が付かなかったのです。
植物図鑑で調べてみると、その木は私たちが普通「ゴムの木」あるいは「インドゴムの木」と呼んでいる木ではなくて、学名フィクス・マクロフィラ(Ficus macrophylla)、英語名はモートン・ベイ・フィグ(Moreton bay fig)とかオーストラリアン・バンヤン(Australian banyan)と呼ばれる木であることが分かりました。オーストラリアゴムの木と呼ぶ場合もあるようです。
おなじみのゴムの木の新芽や若い葉が茶褐色であるのに対して、この木は薄緑であることだけが外見上の違いのようで、分類上ではとても近い仲間です。
久しぶりに晴れた日の午前、この大木の写真を撮っていると、隣の公園に大雨の被害を点検に来た青年がやって来て「大きな木だろう。これはモートン・ベイ・フィグって言うんだ。バデリムの写真を撮るならフォレスト・パークの滝もいいよ」と教えてくれ、わざわざ離れた所に止めた車から役所が作ったにしては立派なサンシャイン・コーストの植物を載せたパンフレットを持って来て私にくれたのです。外国人が町で写真を撮っていれば地元の人は何か手助けしたくなる気持ちは良く分かりますね。その滝も改めていつかご紹介します。
それはさておき、この青年も教えてくれたように「この木なんの木」の疑問が解明されましたが、学名のフィクスは英語のフィグでイチジクのこと。クワ科イチジク属の総称です。英語名にあるモートン・ベイとは我が家から車で1時間ほど、クィーンズランド州の州都ブリスベンの東側の湾のことで、この地域が生まれ故郷なのだそうで、私としては身近な木なのです。やはり日本では鉢植えの観葉植物となっているガジュマルやベンジャミンも同じ仲間です。共にイチジクのような小さな実を付けますが、果物として食べられるほど美味しくはありません。
この木の特徴は幹や枝から空中に気根と呼ぶ根を無数に伸ばし、それが地上に届くと次第に太く成長します。そして、それが幹のようになって本体や太い枝を下から支えるようになります。そして写真でお分かりのようにどれが最初の幹なのか、異なる株が密集して育っているのか判別できないほどの姿になります。歩道を歩く人と比べてみるとその圧倒的なボリュームが分かりますね。また、育つ場所によっては根元がロケットの尾翼のようになるバットレス・ルート(Buttress root=板根)が成長することがあるといいます。
この木の生い立ちなどが概観できましたが、もう一つこのフィグの仲間には恐ろしい素性があることも触れておかなくてはなりません。植物に精神が宿る訳ではないので、恐ろしい素性というとおかしいのですが、他の木を絞め殺してしまうのです。
どういうことかといいますと、このフィグの実、イチジクをついばんだ小鳥などが他の木でフンをするとその木の枝や幹で種子が発芽して気根が地上に達して成長します。気根はその木に絡み付いて締め付け、くい込んでその木からも栄養を吸い取って次第に主客転倒してしまいます。最後にはフィグが自立し「宿」を貸した「被害者」の木が枯死してしまうのです。恐ろしいですね。でもフィグに悪意・殺意はないので自然の摂理として見てやって下さい。
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