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ガリ版 

2013年09月04日 ナビトモブログ記事
テーマ:暮らし

 今は、各家庭にキャノンやエプソンといったメーカー製の卓上プリンターがある。家庭でのプリンターの保有率は、今や90%を超えているという。
 利用目的として最も多いのは「年賀状印刷」で、8割近くの人がそのために利用していると答えているそうだ。プリンターはあるものの、普段はあまり使われていないらしい。

 私のところには、エプソン製の卓上プリンターがある。私は、分からないことは何でもネットで調べる。「例によって、ネットで調べたら」が口癖だ。
 だから、毎日、頻繁にプリンターを使用している。
 もちろん、新聞その他の印刷原稿からコピーすることもあるが、一番多いのは、パソコンからウェブ上の記事を印刷することだ。まるごと印刷、範囲指定印刷、ブログ印刷ができるから、便利だし、簡単、手軽に印刷でき、大変重宝している。

 今や、プリンターは、生活必需品の最たるもので、プリンターがない生活は考えられないほどだ。
 
今日も、「例によって、ネットで調べ」て経済記事を印刷していたら、ガリ版印刷機キットを使ってみませんか、というPR記事を目にした。

 「古き良き時代の温かい思い出、懐かしのガリ版印刷機(謄写版印刷)が復活しました。思い出して、触れてみて下さい。自分の好きな絵や文字を書き、自宅で手軽にオリジナルプリントができます」とある。

 「ガリ版印刷 」、「謄写版印刷」、何十年ぶりに聞く言葉だろう。

 この言葉で昭和を思い出した。そして、小学校、中学校、高校の学び舎を思い出した。

 今から40年近く前の頃まで、つまり昭和50年頃まで、学校では、ガリ版印刷機の全盛時代であった。

 今の若い人は、もちろん知る由もないが、私自身も何十年ぶりに耳にしたので、時間をかけて記憶を辿ってみた。

 ガリ版印刷機とは、要するに、人間が手動で使う印刷機だ。構造や仕組みは、いたってシンプルだ。

 あまりにも懐かしく思い出したので、仕組みを記してみる。

? ロウびきの原紙をヤスリ盤に乗せ、鉄筆で文字や絵を刻む。

? ガリ版印刷機の所定部分に印刷用紙をセットし、その上に文字を刻んだ後の原紙を重ねる。

? ガリ版印刷機の網付きフレームを下げ、原紙に重ね、網付きフレーム越しに、インクを塗ったローラーを転がす。これで印刷ができる。

? 一枚目に印刷するためにローラーを転がし終わった時点で、一枚目の印刷が完了するとともに、インクを吸った原紙は網付きフレームに引っ付く。

? ガリ版印刷機の網付きフレームは自動戻りのバネ付きなので、転がし終わったローラーを上に持ち上げれば、網付きフレームも自動で上に戻る。

? その時点で印刷済みの一枚目を取り除くと、二枚目の用紙が印刷を待つ。

? 次に、網付きフレームを下げ、フレーム越しに、インクを塗ったローラーを転がして二枚目に印刷する。

 同じ内容のものを百枚印刷するには、同じ作業を百回繰り返すことになる。

 作業は、一人でもできるが、もう一人いれば、そのもう一人が刷り上った用紙を取り除き、インクを乾かすに適当な位置に置くことで、作業効率が上がる。

 原紙と呼ばれる薄い特殊な紙に鉄筆で小さい穴をあけ、この穴から印刷インクを押し出して印刷する方法であり、原紙に書かれたものを写し取って印刷することから、謄写版印刷とも呼ばれる。

 原稿に相当するロウびきの原紙に鉄筆で文字や絵を刻むときに、「カリカリ」と「ガリガリ」の中間くらいの音がする。だから、原紙に鉄筆で文字を刻むことを「ガリを切る」と表現する。

 現代の「ガリガリ君」は、アイスキャンデーだが、アイスキャンデーをかじった時の擬音から「ガリガリ君」と命名されている。

 だから、ガリ版印刷機は、昭和の時代の「ガリガリ君」だ。

 原紙に鉄筆で文字や絵を刻むのは、手書きで行うのだから、書く人の個性が出る。上手い、下手が如実に表れるのだ。

 学校の先生の中には、活字みたいな字を書くという特殊技能の持ち主もいて、それだけで一目置かれるという時代だった。ガリ版印刷の全盛時代には、ガリ版技術に秀でた人が出るというものだ。

 ガリを切るのは主に先生だが、学級便りなんかの場合は、生徒もやった。やはり、生徒がやっても上手い、下手が分かれるが、中には、先生顔負けの腕の持ち主がいたものだ。そのことで、その生徒に対する周りの評価が上がることもあった。

 ガリ版印刷機での印刷は、当番を決めて生徒がやったものだ。
 そりゃ、そうだ、今と違って、一学級の生徒数が50人なんてのはザラだし、戦後間もない頃は、60人などというすさまじい時期もあった。だから、生徒が率先して先生を助け、手伝ったものだ。思いやりの心だ。

 鉄筆での文字は書きにくく、間違えたときは、茶色の修正液を蓋についた刷毛で塗って修正するが、修正液で消した後は鮮明に書けなかった。

 鉄筆にも、細字用、太字用、線描き用、ぼかし用など、いろいろ種類があった。一枚の印刷物の原紙を作るのに、大変な時間がかかった。

 印刷原紙を作るのに、下書きなしにぶっつけ本番で鉄筆で書くわけにはいかない。下書き原稿を鉛筆書きして作らなければならない。
 学級便りなんかの場合は、分担して書いた下書きを寄せ集め、配置やレイアウトを考え、下書き原稿をまとめあげたうえで、鉄筆で書いて印刷原紙を作る。

 どんな場合でも、下書き原稿を鉛筆書きして作る時間、それを鉄筆で書き上げて印刷原紙を作る時間がかかる。だから、今に比べ、いかに難儀したことか。

 印刷原紙を作った後、刷るのにも一苦労だ。版画を刷る際のローラーに油性インクをつけたものを下から上に転がしていく。
 ネバネバのインクがつくと洗濯してもなかなか落ちないから、黒い腕カバーは必需品だった。 

 
 学校では、昭和50年頃からFAX製版機というものが導入され始め、ガリ版印刷機は役目を終えた。その後も、ワープロが出現し、更にそれを機能的に格段に上回るパソコンが全盛の時代が続いている。

 現在では、学校で、コピーを取るような形式で、製版から印刷まで全自動でやってくれる機械が導入されているという。

 今では、パソコンとプリンターさえあれば、何でも印刷可能な時代になった。ガリ版全盛時代に比べると印刷物ができあがるまでの手間暇は、格段に省力化され、大幅に短縮されている。

 しかし、ガリ版全盛時代には、手間暇はかかったけれど、メリットもあった。

 鉄筆による手書きの文字には、書いた人の思いや温かみが感じられ、書き手の個性があった。

 一枚の印刷物ができあがるまでの膨大な時間や多くの人の労力を皆が知っているから、人々は、老若男女を問わず、思いやりの心があり、物を大事にした。もったいないという言葉の意図するところを皆が実践したものだ。

 私たちが、ガリ版のお役御免によって、得たメリットは大きい。が、失ったメリットも大きいと言わざるを得ない。

 ガリ版全盛の学校時代、印刷用紙は、わら半紙であり、「西洋紙」という表現が用いられ、紙は大事にされた。そうした言葉も今は聞くことがない。


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