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人生日々挑戦
トドワラの火野正平さん
2013年07月14日
テーマ:人生
「あんたににらまれたら、女はイチコロや」
「またそれか、もう退散や、バイバイ」
これは、「日本縦断こころ旅」の火野正平さんと漁師のおじいさんとのやり取りである。
NHKのBSプレミアムで放送されている「日本縦断こころ旅」の今年5月16日放送分は、京都府舞鶴市の「由良川橋梁」を訪ねる旅であった。
由良川沿いに設けられた小さな船着き場に小舟が一艘。その小舟に漁師のおじいさんが一人。そこから遠くに由良川橋梁を眺めながら、火野正平さんと漁師のおじいさんが会話を交わす。その会話の最後のやり取りを冒頭に掲げた。
火野正平さん、昭和24年生まれの俳優、64歳。
彼は、芸能界きってのプレイボーイと言われ、1970年代から1980年代にかけてプレイボーイとして常に話題を振りまき続けた。相手は、女優、歌手、タレント、裏方
スタッフなど、多岐にわたり、その数は10人を越えるそうだ。
身長は168センチ、とびっきりの美男子というわけでもない。にもかかわらず、母性本能をくすぐる魅力で次々と女性と浮名を流したと言われている。
それにしても、なぜ、こうも多岐にわたる女にいとも簡単にもてるのだろう。
「こころ旅」を見ながら、ずうーっと不思議に思ってきた。
「こころ旅」は、2011年春の旅に始まり、今年で3年目である。
これまでで一番印象に残っているのは、2012年春に北海道別海町の野付半島(のつけはんとう)を訪ねる旅である。昨年の7月20日に放送された。もう1年前のことになる。
火野正平さんに、訪ねてほしい「こころの風景」について手紙を書いた人は、埼玉県さいたま市在住の成川円さんという、49歳の女性である。
成川さんは、手紙の書き出し部分で次のようなことを記載している。
私の「こころの風景」、それは、北海道の野付半島であること。
それは、知床半島と根室半島の中間にあり、北方領土の国後島が16kmに迫る位置にあること。
7年前に、野付半島近くの尾岱沼(おだいとう)ふれあいキャンプ場を拠点とし、半島入口から15km先にあるネイチャーセンターまでを成川さんが走り、5歳の息子さんがちっちゃなちっちゃな自転車で伴走してくれたこと。
ここで、付言するが、野付半島は、細長い半島で、延長28kmにわたる砂嘴(さし)であり、規模としては日本最大である。砂嘴とは、海中に細長く突き出た地形のことであり、半島部分に、沿岸流によって運ばれた砂礫(されき)が堆積して形成される。野付半島は、ひらがなの「つ」の形、あるいは、大きな釣針のような形をしていて、半島としては、実に珍しい形である。
そうした延長28kmにわたる細長い半島の15km部分までを、成川さんが走り、5歳の息子さんがちっちゃなちっちゃな自転車で伴走したというのだ。
成川さんは、続ける。
「5歳の息子に、夏の野付半島は、さえぎる木々もなく、照りつける太陽で、さぞ大変だったと思います。けれど、泣き言も言わず、ハムスターのように、クルクル、ペダルを漕いで頑張っていた息子」
15kmの距離を42歳の母親が走り、5歳の息子が必死に伴走している光景、ほほえましくもあり、頑張れ、と声援を送りたくなる。そういう楽しい思い出の地を「こころの風景」として訪ねてほしい、ということだなと理解してしまう。
しかし、成川さんからの手紙は続ける。
「悲しいことに、その息子は、昨年10月に、11歳という年齢で、天国へ旅立ちました」
なんということか。
手紙は、更に続く。
「ネイチャーセンターの先に、立ち枯れした「トドワラ」があり、そこがゴールです。ゴールした時の、満足そうな顔をした、息子の顔が忘れられません」
そして、「息子が亡くなってまだ日も浅いため、辛くて行くことができないが、ふれあいキャンプ場から、野付半島を進み、ゴール地点の「トドワラ」を訪ねていただけたら、息子の供養になると思い、お手紙を送った」旨が綴られている。
「トドワラ」とは、野付半島の海水と潮風の影響でトドマツが立ち枯れ、白骨化したようになった奇観をいう。
撮影日には、中標津(なかしべつ)からおよそ50kmの自転車ルートを予定したが、あいにくの悪天候であって、雨と風が強く、その日は中止となったという。
翌日、霧と向かい風の中、火野正平さんは、お手紙に応えるため、尾岱沼ふれあいキャンプ場から野付半島のトドワラまでの25kmを自転車で走った。
成川さん親子が7年前に走った時は、夏の照りつける太陽の下。
そして、火野正平さんが走るのは、悪天候の翌日の霧の中。
7年の前と後の間に、成川さんの息子さんが天国へ旅立たれた。
野付半島のトドワラに向かう途中、火野正平さんは、愛車のチャリオ君を止める。
そして、白い野の花を数本摘んで、自転車の荷台に結わえる。「息子さんにネ」とつぶやいて。
再び、霧の中を走り始めた火野正平さんの自転車姿をカメラが追う。荷台に結わえられた白い数本の花が風に揺れる。
やがて、トドワラに着いた火野正平さんは、辺りをしばし散策し、つぶやく。
「成川円さん.....、トドワラに来たヨ......... 落ち着いたら、また来てやってネ」
カメラの画面から火野正平さんは消える。火野正平さんが立ち去った後に、白い数本の野の花。
これで、分かった。なぜ、火野正平さんは、いろいろな女の人にもてるのかが。否、女の人のみならず、老若男女に広く好かれるのかが。
火野正平さんは、いつからかは分からないが、今、頭がツルツルである。まるで、達磨大師のように。なぜ、そうなったのか。私は、それまでのさまざまなことを懺悔しているうちに、頭にきた、と勝手に解釈している。
成川円さんと11歳で天国へ旅立たれた息子さんをおもい、一句詠ませていただいた。
トドワラに
手向けし野花
夏の空
合掌。
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