ナビトモのメンバーズギャラリー

条件で調べる

カテゴリ選択
ジャンル選択

前の画像

次の画像

ギャラリー詳細

作品名 「ブナの鼻」 評価 評価評価(2)
タイトル なにかを感じてくれればうれしいです。1週間ほどの連載になります
投稿者 タンちゃ 投稿日 2015/03/07 19:07:41

「ブナの鼻」
 奥羽本線の及位(のぞき)駅を過ぎれば、山形県から秋田県に通じる県境のトンネルに入ります。トンネル上の鞍部からは尾根続きとなって北に向かって連なり、一番高い鳥海山にたどり着き、頂からは緩やかな裾野となって日本海まで繋がり、山脈は終わりになるのです。
冬になると、シベリアから吹いてくる冷たい風は、日本海の上を通る抜けるとき水分をタップリと抱え、雪雲となって鳥海山の裾野を頂に向かって吹き上がり、一帯に雪を降らせ銀世界に変えてしまいます。その鳥海山の後ろ側に隠れるようにして、丁岳(きのとだけ)という名の山があります。
 丁岳も高い山です。冬になると山頂あたりでは雪が五メーターも六メーターも降り、山の姿が変わってしまうほどの積雪になります。
頂から五十メーター下りたところは、丁岳のなかでも雪が一番多く積もるところです。ここに急勾配の岩尾根が十メーターほど続き、その尾根の中央辺りに、燕の巣のようにボコンと前に飛び出している平らな岩場があり、その広さは畳み三畳くらいしかありません。
秋になりました。一粒のブナの種が風に乗って飛んできて、その岩場の中央にポトンと落ちました。まもなく黄色、茶色、赤色になった葉がひらひらと種の上に舞い落ちて重なりあうと、北風が吹きはじめて気温度が下がり、雪が降り始めたのです。ボコンと出た岩場の上にも雪が降り積もり、大きな雪帽子ができあがりました。

長かった冬が終わり、季節は暖かい春に変わると雪が融け始め、厚く積もった雪も六月の中ごろになると、すっかりなくなりました。岩の上の種は、外からは分かりませんけれど、長い眠りから目覚めていたのです。堅い殻が割れ、柔らかな幼根が母のオッパイを探し求めるように、岩の隙間の奥にある栄養を求めて入り込んでいきます。芽も出て、黄緑の頭を大きくしながら、覆っていた枯れ葉を押し上げ、生まれて初めて太陽の光を浴びました。そして小さな葉の形から緑を濃くして大きくなっていきます。
葉は幹を伝って上がってきた栄養を光合成して、今度は根に送り返しまします。幼根はますます元気をだして、細い幹を太く大きく、葉の数も増やして、岩場の上を這うようにして張っていきました。それから何十年の歳月が経ちました。

ブナが栄養を得て成長していくための場所は、飛び出た広さの岩場しかありません。ですから根は、岩の割れ目を見つけては、こじ開けるように刺しこみ、絞りあげ、岩の奥に溜まっている水分や栄養を吸い取って、大きくなっていきます。その作業には満身の力が必要で、根は力瘤のように、ぼこぼこと盛り上がって太く、異様な姿で過酷さが滲み出しています。
特に根元の力瘤が大きく、数も多くありました。そこから幹が斜めになって、丁川に面した谷に向かって幹は、少しずつ伸びて大きくなっていき、また何十年も経ちました。

ブナは、成長して前に出ると、周りの景色がよく見えるようになりました。右にも左にも、自分と同じ仲間のブナの木が見え、杉、クヌギ,ナラ・・・。いろいろな木が見えました。どの木も自分よりも幹は太く、真っ直ぐ上に伸びて恰好のいい木ばかりです。自分が仲間のブナの木や、他の木々とちがっている姿に戸惑い、悲しくなりました。そう思いながらも、また何十年がたちました。

明日に

 

前の画像

次の画像



【タンちゃ さんの作品一覧はこちら】

最近の拍手
全ての拍手
2018/12/20
2015/03/08
良香
2015/03/08
MOMO
2015/03/07
みのり
2015/03/07
拍手数

5

コメント数

0


コメント

この作品はコメントを受け付けておりません


同ジャンルの他の作品

PR







上部へ