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作品名 67になっても、たまにはデートしたい(49) 評価 評価(1)
タイトル 67になっても、たまにはデートしたい(49)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/04/12 22:06:09

+++次の日にベッドで心底ほっとし
たように女が呟いた。女は、私を
「好き」になってしまったのである。

49.深いしわとうぶな女

 好きになると、「セックスは、コミ
ュニケーションの便利な道具よ!」と
自身の言っていた神通力が、女の中で
通じなくなる。「道具」の位置付けに
しか過ぎなかったものが、何時の間に
か「愛情」に変化しているのを女は自
覚した。

 そうなると、割り切りであっても、
他のパトロン達と付き合うのが、苦痛
になって来たらしい。普段の生意気な
口に似ず、案外根は不器用だったのだ。
計算外の成り行きに、双方が戸惑った。

 女は若く何時も生き生きとして、確
かに魅力的であった。けれども、私は
女に対して付き合い初めから一貫して
冷静で、「素敵で魅力的なセフレ」以
上のものではなかった。倍以上に年齢
差のある老人なのだから、女が私を好
きになるなんて有り得るとは信じられ
なかった。

 何かの間違いと思ったから、私は女
の気持にわざと気付かない振りを通し
た。それに応えるかのように、女も自
分の気持ちを押し隠して独りで苦しん
だ。

 昼下がり、二週間に一度会うデート
を毎週にして欲しい、と女はせがんだ。
社長業の多忙さもあって、やんわり断
ると女は涙ぐんだ。

 女が私に恋愛感情を抱いたのは、擬
似的なものだったろう。錯覚している
のだ:故郷から遠く離れた独り暮らし
の寂しさと、友人の少なさが根底にあ
ると私は推測した。
 社会に出れば、仲間が多かった学生
時代と同じには行かない。大都会で長
年一人で突っ張って生きていた女には、一人ぼっちにも似た寂しさがあったろ
うか。

 そんな時に、自分を丁寧に受け止め
て、親身になって話や愚痴を全部聞い
てくれる、一人の親切な人間に出会っ
たのである。何時も尊重して、白鳥か
お姫様みたいに大切に扱ってくれる。

 女性というのは概して共感してくれ
る相手に親しみと愛着が湧くものだから、年齢は違い過ぎたが、ホロリと来
てしまったのだろうか。父親に対する
ような甘えた情感を、明らかに女は恋
愛と混同していた。

 「今まで貴方のような人に出会った
事がないーーー」と、女はこれまでに
も度々私に同じ言葉を言った。単なる
好意的な言葉に過ぎないと、気にも止
めず私は何時も聞き流していた。
 が、改めて考えてみると、これは女
が過去に一度も男から本当の愛情を注
がれた事がなかったからではないか、
という気がした。

 男性経験が豊かであるように見えな
がら、乾いた関係のパトロン達ばかり
を求める余り、道具としてのセックス
以外を女は知らなかったのである。

 パトロンの側にしてもビジネスライ
クに割り切った関係だから、女に対し
て性行為以上の期待も関心も示さなか
ったに違いない。増してや、女のおし
ゃべりに付き合うなんて、真っ平ご免
だったのだ。

 私に大切に慈しまれた時、「こんな
風に愛される世界がある」のを、女は
初めて知った。バレエに熱中するばか
りの余り、本当に男を愛し愛される機
会を、バレエが奪っていたのかも知れ
ない。

 三十近くになるまで本当の愛を知らないままの、ある意味ウブな女に私は哀れを覚えた。 

(比呂よし)

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