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作品名 泣き虫しょったんの奇跡 評価 評価評価評価(3)
タイトル 余計な世話ながら
投稿者 パトラッシュ 投稿日 2018/09/14 13:48:24

おぞましい光景を見ました。
大勢の男が、将棋を指している、その部屋に、煙が充満しているのです。
副流煙です。
タバコを吸っている者が、多いからです。
1980年代の、ある将棋道場のことです。
換気装置がないのか、あるいは、あっても排気が、追い付かないのかもしれません。

その中で、小学生が二人、マスクを着用し、将棋を指しています。
強敵を求め、道場に乗り込んでいるのでしょう。
しかし、幼い彼らの、発育途上の呼吸器のことを考えたら、この煙の中に、
長居させて、良いはずがありません。
そんなところへ、行かせた親がよくないです。
黙認する、道場の経営者もです。
私は、映画を見ながら、妙なところで、腹を立てていました。

 * * *

互いに技術を競い、優劣を争う世界があります。
その道で生きる、つまり、プロになるというのは、大変なことなのです。
将棋の場合、それが、ことに厳しいのは、門戸が狭いからです。
プロとして認められるためには、四段に上がらなければなりません。
しかし、三段から四段にかけてのところに、落差の大きな堰
「三段リーグ」が設けられていて、半年に二名、一年に直せば、四名しか、
その堰を越えられないのです。
いや、そんなものを、軽々と越え、上流へと奔走する、藤井聡太君のような例も、
なくはありません。
彼は、百年に一人の天才でしょうから、当然と言えば、当然なのですが。

しかも、その堰には、年齢制限があるのです。
二十六歳が、リミットです。
その誕生日までに、そこを越えられなかったら、プロへの道を閉ざされる。
こんな厳しい制度を、どうして作ったのでしょう……
初志を貫くのはいいが、もし、歳を取り、断念することになったら、
社会への適応が、難しくなる恐れがある。
進路変更するなら、若いうちがいい。
という“親心”から、設けられたと思われます。

もう一つ“業界内”の事情ということもあるでしょう。
棋戦は限られています。
安易にプロを増やせば「食えない将棋プロ」が、続出するおそれがあります。
それを避けるため、門戸を狭める。
これ即ち、先住者の既得権益という側面も、なくはないのです。

ゴルフと比べると、わかりやすいでしょう。
あちらでは、PGAなどの、テストに合格すれば、名実ともにプロとなります。
その数は、将棋より、はるかに多いです。
その代わりに、トーナメントに出場し、賞金で食って行けるプロは、限られています。
言ってみれば、富の一極集中です。
多くのプロは、出場すら叶わず、アマチュアへのレッスンで、収入を得ているのが、
現実なのです。

将棋とゴルフ、どちらのやり方が良いか、それは、一概に言えません。
いずれの道も、トップクラスに君臨するのは、才能に恵まれ、努力を重ねた、
ごく限られた者です。

その困難な、将棋プロへの道を、二十六歳の年齢制限まで、頑張った男が居ます。
不運もありました。
努力が足らなかったことも、あったでしょう。
非情に、勝負に徹し切れない、つまり、お人好しのところもありました。
彼は、二十六歳にして、プロへの道を諦め、そこから、大学に入り直し、
やがて会社に就職しました。

今度は、余技として、将棋を楽しむことになりました。
そうしたら、どうです。
好成績を上げ、アマ名人にまで、上り詰めてしまったのです。
運命と言うのは、皮肉なものです。
そこから、プロ入りへの道が開けて来たのです。
「特例」です。
規則は規則、しかし、情況により、それを柔軟に解釈し、便法を設ける。
いかにも、この国らしいやり方ではありませんか。

 * * *

ここまでお読みになり、ああ、瀬川晶司さんのことだと、お分かりになった方は、
将棋をよく、ご存知の方です。
私ももちろん、知っています。
これでも、小学生相手に、囲碁将棋を教えている身ですから。
但し、棋力は、アマチュアの初段。
その後、プロの五段に昇進された、瀬川さんとは、その棋力において、
雲と泥ほどの差があり、三遍回って、逆立ちしたって、敵わないことは、
言うまでもありません。

この映画は、瀬川さんが、かつて書かれた、同名の自伝小説を、下敷きにしたもので、
「しょったん」は、もちろん、彼のあだ名です。
将棋界の著名人が、数多く登場するなど、将棋好きには、
興味深い映画と、言えなくもありません。
一方で、主人公の鬱屈を思えば、辛い映画でもあります。
最後がハッピーに終り、ほっとするのですが。

実録小説を映画化する場合、何処まで、原作に付くか、離れるか、
そこに難しい問題があります。
この映画の場合、やや付き過ぎている感があります。
ストーリーを追うあまり、あれもこれもと、詰め込み過ぎ、その代わりに、
人物が十分に描かれていません。
父や母、そして兄、彼らの素顔が、今一つ、はっきりしません。
思いを寄せる、女性にしても、同じです。

登場人物が、多過ぎるせいもあるでしょう。
総花的に、それこそ、なぞるようにしか、描かれません。
将棋界が、男の世界ということも、あるでしょう。
これほど、女性の影の薄い映画も、滅多にありません。

と書いていて、今、思い出しました。
一人居ました。
冒頭に登場し、すぐに消えた、松たか子演じる、小学校の先生です。
これは、よかったです。
しょこたんの将来に、少なからぬ影響を与えました。
但し、ストーリーの中で、大きな存在とは、なりませんでした。

 * * *

問題は、将棋を知らない観客が、この映画をどうみるかです。
「おい、見に行くかい?」
「えー……、今日?……雨降りそうだから、あたし止めとく」
妻を誘ったのですが、体よく断られてしまいました。
今時の映画館、雨漏りなんか、しないのですがね。

☆☆☆です。
皆さんに、心からお勧めしたい。
という映画ではありません。
将棋好きの方なら、ご覧になっておくのが、よろしいでしょう。
と申し上げるくらいのところです。

タバコの煙が、お嫌いの方は、お止めになっといた方が、無難かもしれません。
登場人物の多くが、もう、ヒマさえあれば、タバコを吸うのです。
道場の灰皿なんぞ、吸い殻で、溢れんばかりです。
私は、スクリーンからは、十数メートル離れ、座っているのに、ふと煙の匂いを、
感じてしまったくらいです。

そして、瀬川君にも、残念なことがあります。
好青年なのですがね……
環境の影響でしょうか、彼もまた、タバコを吸うのです。

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