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作品名 TAP THE LAST SHOW 評価 評価評価評価(3)
タイトル 【結末注意】群舞の迫力
投稿者 パトラッシュ 投稿日 2017/07/04 16:52:19

「あの若いダンサー?……あれが、主人公の息子だったってわけ?……」
「やだぁ、気付かなかったの?……古い写真を、しみじみ見てる、
水谷豊の姿が、あったじゃない」
「そういえば、前田美波里が写ってたな」
「だから、二人の間の、子供ってことなのよ」
「そうか、そういうことになるのか」

妻に呆れられています。
私がいかに、映画を上の空で見ているか……です。
そしてまた、私は、男女間の機微にも疎いのです。
こんな鈍感な男は、仮に浮気をしても、妻の炯眼の前に、
たちまち馬脚を現すことでしょう。

その妻にも、弱点があります。
「劇場主をやった人、ほら、あの人……」
固有名詞が苦手なのです。
咄嗟の時に、すんなり出たためしが、ありません。
「あの……」「その……」
代名詞頼りなのです。

「岸部一徳だろ」
見かねた私が、代わりに、その名を言ってあげるのです。
「そう、それ」
もうちょっとで、思い出したのに……と言いたげな、顔をするのです。

「私、会ったことがあるのよ、新宿の地下道で。あの人、身体が大きいから、目立つのよ」
「彼、今は俳優だが、昔、グループサウンズをやってたことがある」
「知ってる。ほら、あの……」
「タイガース」
「そう、それ」
大概が、こんな調子です。
こんな二人が、もう長いこと、夫婦でいるのです。

 * * *

この映画を観ている最中、他にも私は、気付かぬことがありました。
「やだぁ、劇場主はとっくに、死んでるのよ。ラストショーの最中に」
「だって、最後に、主人公と二人、公園のベンチで、
語り合ってたじゃないか」
「あれ、想像シーンよ。生きていたら、きっとこうなるだろうって」
「そうなのか……」
「やだぁ、知らないで見てたの?」

妻が呆れるのも、無理はありません。
しかし、私にだって、言い分があるのです。
ストーリーがいまいち、分かり難かったのです。

主人公、渡真二郎は、かつて、天才の名をほしいままにした、
タップダンサーでした。
しかし、舞台事故により、足を痛め、今は、杖に頼りつつ、
跛行を余儀なくされる身です。
栄光から失意へ。
酒浸りになる、その気持は、わからないでもありません。

そこへ、旧知の劇場主が、訪ねて来ます。
「劇場を閉めることになった。その最後を飾る、ショーをやりたい。
ついては演出を頼みたい」というわけです。

しかし、彼のその、ウイスキーのガブ飲みを、度々、見せられている観客は、
「あれもう、完全に、アル中じゃないか」
と思い込んでいます。

その渡が、それでも気を取り直し、出演者募集に応募してきた、
ダンサー達への、オーディションに臨みます。
持っていたステッキで、突然、傍らの椅子の背を叩き始めました。
リズムを取るため、応募者らに、ダンスを促すためとは、じきにわかりました。
しかし、アル中の身にして、あんなに激しく、
杖を振り続けられるだろうか……
膂力もさることながら、よくスタミナが続くな……
そこからして、疑問です。
遂には、その杖が、折れてしまう。
ステッキって、叩いたくらいで、簡単に折れてしまうものなの?……
私は、ここでも疑問が湧きます。
これはおそらく、枝葉末節への、拘り過ぎだろう。
と思いつつも、現実にはありえない光景に、戸惑ってしまうのです。

「んなばかな」という光景が、他にもありました。
随所にです。
ストーリーを、無理に作っている。
劇的であろうとして、現実には、ありえない情況を設定している。
そう言う感想を、上映中に、何度抱いたことでしょう。
それらの不合理や矛盾を、丁寧に均して行ったら、
もっと良い映画になっただろうに……と言う思いが、消えないのでした。

最後のショーが始まりました。
これがもう、これまでの疑問を封殺するかのように、見事なのです。
迫力と言う言葉以外に、これを評することは出来ません。
最後の二十数分、これが、この映画の、大いなる見せ場です。
傾き続けていた、私の首も、このフィナーレに至り、
ようやく、直立したというわけです。

 * * *

「よかったわ。☆☆☆☆よ」
「そうかい。私は、☆☆☆だった」
この映画に、妻を誘った私としては、何とか、面目を保ったことになります。

水谷豊の、監督兼主演作品です。
見るも見ないも、あなたご自身でお決め下さい。

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