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作品名 花戦さ 評価 評価評価評価評価評価(5)
タイトル 一輪にて伝わる
投稿者 パトラッシュ 投稿日 2017/06/16 13:25:37

「どんな映画なの?」
「花でもって、天下人、関白秀吉に、戦いを挑んだ、と聞いている」
私だって、よくわからない。
そんなことが、出来るのだろうかと、疑っている。
ある落語家が、この映画を見て「面白かった」とブログに書いた。
それで、尻馬に乗り、見る気になったに過ぎない。

「誰が出るの?」
「主演が野村萬斎」
「……」
「本職は、狂言師なんだろ、あれ」
「ああ、知ってる」
「他に、中井貴一」
「あら」
「市川猿之助」
「へえ」
「三国連太郎の息子で、ほら……」
「佐藤浩市?」
「そう、それ」
「じゃあ、行こうかしら」
「あと、佐々木蔵之助、竹下景子」
「あら、ずいぶん出てるのね。じゃあ、行くわ」
私の妻は、出演者名を頼りに、見る映画を決める。
芝居を決める。
そういうところがある。

私だって、似たようなものだ。
聞いた名があれば、何となく安心をする。
それ以前に、風評に頼っている。
誰かの感性に頼っている。
見識ある映画ファンとは、とても言えない。

 * * *

主人公の名を、専好。
後の池坊の礎となった人である。

彼は、人の名を覚えられない。
聞いても、すぐに忘れる。
「寺の執行(しぎょう)には、向いていない」
と自ら嘆くくらいに、京都頂法寺、六角堂の僧として、頼りない。
それでも、衆望を集めるのは、彼が「花僧」だからだ。
織田信長を驚かすほどに、「花」を活かす、その才覚に、
敬慕されるべきが、あるからだ。

同時代を生きた、千利休との交わりがあった。
親友でもない。盟友でもない。
強いて言えば、畏友であろう。
もちろん相互にである。
それぞれの道において、独自の境地に達した者同士の、
敬意がそこにあることは、言うまでもない。

その利休が、秀吉の美意識と相容れず、その志操を守り、死を選ぶ。
凶暴な独裁者と化した秀吉は、町の人々にさえ、
ささいな讒言を理由に、刑死を与える。
これを見かねた専好が、遂に立ち上がる。

前田利家邸の床の間(と言ったって、庶民のそれとは違い、間口4間もある)に、松、菖蒲、蓮、石楠花、躑躅などを用いた、大砂物を飾る。
砂物とは、立花の様式の一つであり、水ではなく、砂を用いて花を活けるもの。
横幅を広くし、根元を砂や小石で固定する。

これがもう、見事というよりない。
前田邸に下向した、秀吉の謁見するところとなる。
その美に感嘆しつつも、猜疑を捨てない秀吉。
それに対し、これでもかと、美の本質を語る専好。
白刃を突き付けられても、怯むことがない。

遂には秀吉、その怒りの鉾を納める。
専好の天衣無縫を前に、遂に、笑わせられることになる。
多分に苦笑ではあるのだが、それでも笑いは笑い。
専好の勝ちだ。

 * * *

私の囲碁サロンには、建物構造上に理由から、壁に凹部がある。
幅が四尺、奥行きが一尺五寸。
ここに厚板を掛け渡し、物を置けるようにしてある。
ささやかながら、私としては、床の間のつもりでいる。

壁に、絵を掲げてある。
棚には、花瓶を置き、花を飾っている。
もちろん、生花である。
これを一年中、欠かさないようにしている。

しかしながら、私には、華道の心得がない。
「二メートル先から、投げ込んだような……」と、
ある客が、その無造作を評して笑った。
そのくらいに、私は、手を加えずに、花を花瓶に突っ込んである。

この映画を観て、少し反省している。
花は、切り方、立て方により、見栄えが随分と違う。
配色と共に、バランスや、シンメトリーを、もう少し考えねばいけない。

日持ちする花を選ぶ。
これも私の悪い癖だ。
(というより、吝嗇から来ているのだが)
「ただ花があればいい」「賑やかしになる」
これ自体が、多分、華道の第一義を没しているのでは、あるまいか。

花は、束の間の命を輝かす。
人間にも言えることだ。
その命の長さを、競うものではない。
須臾を、刹那を、どう生きるか……なのである。

「一輪にて伝わるは 多くより心清し」
劇中で、専好の言った言葉だ。
花は、一輪でよい。
どころか、むしろ一輪であることが、見る者に、多くのことを伝える。
ということを、言いたいのであろう。

これ実は、文学にも言えることだ。
言葉を惜しむ。
その行間にこそ、詩が生まれる。

絵画にも言えることだ。
「墨を惜しむこと、金の如し」
余白こそが、命なのである。

この映画、示唆に富んでいる。
華道の心得のない者にこそ、見て頂きたい。
なるほどなあと、頷かされることが多いはずだ。

皆様に、ご鑑賞を、お勧めする由縁です。
「風評頼り」「他人の感性頼り」も、時に大当たりすることが、
あるのです。

 * * *

以下は蛇足です。
この映画「花戦さ」については、かつて、当シニアナビのTOPページに、
広告が載っておりました。
試写会招待か、鑑賞券のプレゼントかは、忘れましたが。
しかし、私は、この企画には、申し込みませんでした。
そして昨日、自費で、鑑賞して参りました。

事務局に対しは、かつて度々、要望を出しましたが、
一向に改善が為されません。
それ以来、このSNSには、多くの期待を抱かなくなりました。
さりとて、辞めるほどでもないので、当面在籍しております。
変な会員ですね。
不満分子として、さぞ、マークされていることでしょう。

「お手打ちになさるなら、どうぞご存分に」と、
ここだけ、専好さんのような、心境でおります。(笑)

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コメント

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漫歩さん

私の中学のクラスメートが池坊の地域の将官クラスの位になっていて、毎年傘下の作品展にさくら役を務めさせられています。
そんなこともありましてパトラッシュさんの名調子を興味深く拝読しました。

余白こそが和の文化の神髄である。大きく肯きました。

ところで、その映画の出演者が揃って私好みです。ケチな男だから
映画館には行きませんが、いずれテレビに録画して観る機会が来ましょう。楽しみです。

2017/06/16 21:30:15

パトラッシュさん

漫歩さん、
「一輪の花」を文学の中に見出すとなると、俳句こそが、
その筆頭でしょう。
短詩形文学で磨いた感性は、他の分野においても、きっと通用すると思います。

池坊の将官クラスですか……
偉いものですね。
さくら役も、華道の作品展なら、目の保養になり、結構なことだと思います。

2017/06/17 06:52:55


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