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この父ありて〜娘たちの歳月 

2023年03月17日 ナビトモブログ記事
テーマ:本を読む

娘から見た父親とは、どういう存在なのだろう?
遠くから、近くから見つめた父親と自分の人生。
何一つ同じ境遇などないが、戦争と言う理不尽な出来事が
9人の女性すべての人生に横たわっていた。

シスター渡辺和子〜愛された記憶だけの大好きなお父さま
父親は、2.26事件に遭遇し、凶弾に倒れた。
その一部始終を部屋の隅に立てかけてあった座卓の陰に隠れ、
たった1人、9歳の少女和子は見つめていた。

この出来事こそ、自分がこの世に生を受けた意味。
憎む敵の中で一人ぼっちで父を死なせないためだった。
最期を見守るためだったと語った。

詩人二人の父親は対照的な存在として書かれていた。

石垣りん〜父親の4度の結婚に嫌悪しかなかった人生。
一家の家計はすべて彼女の肩に重くのしかかる。
苦悩と痛みを突き破って書かずにはいられない感情。
綺麗事で終わらせない銀行員として定年を迎えた時の詩
「定年」
 
*ある日、会社がいった。
 「明日からこなくていいよ」
人間は黙っていた。人間には人間の言葉しかないから
会社の耳には 会社の言葉しか通じなかったから*

茨木のり子〜父親はかっこいい医者であり、貧乏人も分け隔てなく診療した。
また、修学旅行にも行けない子供たちのために
匿名で出資をするほど慈愛に包まれた人だった。
そして、父を通して自立を知る。

最愛の父親と夫、倚りかかるものを失くした茨木は
詩を書くことで自分と向き合った。

辺見じゅん〜火宅の人であり、文学者への道を断念した父は、角川書店の創業者であった。

辺見は二つのノンフィクション作品。シベリアで無念の死を遂げた山本幡男(映画では「ラーゲリより愛を込めて」)や
海底に沈んだ戦艦大和と共に散った男たちの声をこの世に届けた。
その時代こそ父親が生きた世紀だったからだ。

〜戦艦大和が沈没したのは4月7日、駆逐艦に救助された乗員たちは、翌日、佐世保港に帰還した。
その時、一人の兵士が
「桜が咲いている!」と叫びながら気が触れたように、甲板で転げまわったという。〜

このエピソードにたどり着いた辺見じゅんの情熱を私は忘れない。

他に、石牟礼道子、田辺聖子、萩原葉子、
島尾ミホ、斎藤史、
父ありてこそ、彼女らの人生が存在したと思った。



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