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敏洋’s 昭和の恋物語り

水たまりの中の青空 〜第二部〜 (百十八) 

2021年07月04日 外部ブログ記事
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 武蔵に言われるまま、小夜子は店を早退した。
「この時間では、あそこだな。本当はビーフステーキでも、食べさせてやりたいんだがな。
そうだ、休みの日に時間を作れ。銀座一の店に連れて行ってやるぞ。どうだ?」
「ほんと? ビーフステーキをご馳走してくれるの? 約束よ、絶対よ」
 小夜子は目を輝かせて、武蔵を見つめた。
「それに、服も買ってやろう。小夜子には、もっとレディになって欲しいからな。
俺の愛人にしては、その服は見すぼらし過ぎる」
「嬉しい! 約束よ、きっとよ。今度の日曜日がいいわ」

 武蔵の周りをスキップしながら、小夜子は満面の笑みを見せている。
“これだ、この笑顔だ”。武蔵の周りには、常に誰かしらがいる。
独り住まいの自宅から一歩出れば、町内の面々から「旦那さん」と声をかけられる。
毎年町内会に対して町費以外の寄付を申し出ている。
代わりに、町内会のすべての役職を辞退している。

 先年において是非にと懇願されたことがあり、一年だけ副会長職に就いた。
「副ですから、あくまで会長の補佐ですから」。
しかし実態は単なる補佐ではなく参謀役として全ての行事に携わることになってしまった。
それが為に幾度かのビジネスチャンスを失ってしまった。
で、寄付金を出すことで役職から外れることを納得させた。

 会社に着けば当然ながら社員たちがいて、皆から笑顔をもらう。
時に武蔵の叱責に震え上がる者もいるが、大半はニコニコと笑顔で接している。
取引関係についても、強面で接することはあるけれども、こちらも大半はえびす顔でいることを意識している。
当然のことながら相手もまた笑顔で接してくる。
中には、己いや所属する会社や職位を誇示するかの如くに渋面で接する者がいるが、武蔵にはまるで意味のないことだ。
媚びへつらうことがなにより嫌いな武蔵で、相手に対してもそのような行為をする者に対しては嫌悪感を丸出しにする。
武蔵個人に対してはなく、武蔵の持つ財力に対する畏怖観だと感じてしまう。

 無論、金員の持つ魔力は知っている。
武蔵自身、幼少期においてその力をまざまざと見せつけられている。
へこへこと頭を下げ続ける父親を見て育った武蔵であり、相手が居なくなった途端に悪態を吐く父親を知る武蔵でもあった。
「びんぼうだからね、びんぼうのせいなの」。
「お父さんはわるくないのよ、あんたたちのためにあたまをさげているのよ」。
母親から聞かされる言い訳のことばが、今も頭から離れない。
五人兄弟姉妹の末っ子として生まれ、母親の乳が薄いことから米汁で育てられたことで、病弱な幼児時代を送った。結局のところ、男子に恵まれなかった叔父夫婦の元に養子として出された。七歳になった折のことで、その夜は初めての尾頭付き魚が振る舞われた。

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