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パトラッシュが駆ける!

白昼に飲む 

2019年07月20日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

酔ってはいるが、酩酊はしていない。
頭が少し、ぼんやりしている。
足の踏ん張りが利かない。
床に、見えざる毛布があり、その上を、ふわふわと歩いている感がある。

あまり経験したことのない酔いだ。
それもそのはず、私は飲みつけない酒を飲んだ。
それも長時間にわたり飲んだ。

正午ちょうどに会食を始め、もうじき4時になろうとしている。
昼時であり、店は込んでいた。
店外に、待ち客が列を為すほどの店である。
それにしたって、ランチに数時間もかける客は居ない。
気が付いたら、広い店内に、私達四人だけが残っていた。
これに対し、店員が何も言わない。
呆れ果てているのか、無頓着であるのか……
私は、居酒屋なら、その機微に通じているが、
イタリアンレストランの内情なんぞ、知る由もない。

赤ワインは本来、料理を味わうための、補助酒と心得ている。
料理が王様であり、ワインは従卒だ。
それが、私達の場合、ワインが主役になっていた。
いや、サラダやピザなども、注文はした。
そうでないと、店だって不審に思う。
あの客らは、何だ……ということになる。
料理はテーブルに届いたが、皆さん、喋るのに夢中で、
これが容易に減らない。
実は、窯焼きピザで鳴らした店なのである。

談論風発とは、このことだろう。
但し、私がしゃべった時間は、ごく短い。
私のシェア(占有率)は、5%くらいであったろう。
それを言えば、隣のスバル氏とて同じ。
男性二人合わせ、10%を上回ることは、なかったであろう。
では、残りを誰が喋ったか。
言わずもがなであり、男が譲るとなると、それは女性しかない。
そして、それで良いのだと思っている。
女性が談笑する。
それを傍らで、男がふんふんと聞いている。
これこそを、平和な光景と言うのではあるまいか。

「先生」
「たかちゃん」
呼び合う二人は、師弟であるそうだ。
高校の先輩後輩でもあり、時期は違えど、
共にウィーンへの留学経験を持っている。
互いの家族の内部事情にも詳しい。
喋ることは、それこそ無限にある。

本来は、女性お二人が会食すれば、済むことであった。
でもそれでは「もろ」になる。
最近はこれを「ガチ」と言うらしい。
「ガチンコ」の略で、本格的にぶつかる、正対する、
と言う意味である。

ぶつかれば、それで良いと言うものでもない。
いくら極上のマグロであろうと、
刺身ばかり食べていると、口がくどくなる。
ツマもほしい。
私達男性陣は、そのツマの大根の役割を期待され、
招請されたのではあるまいか。

スバル氏はそれでも、未知子先生とは、昔馴染みだ。
中学で同級だった、それ以来のお付き合いだから、
この道ん十年のベテランである。
そこへ行くと私は、未知子初心者だ。
彼女とは、近年、あるSNSのブログを通じ、親しくなった。
互いの文を読み、何となくウマが合った……
としか言いようがない。

私は一芸に秀でた人が好きだ。
特に音楽と美術の分野である。
私は、歌も楽器もダメ、絵を描かせても、幼児画の域を出ない。
だから、これらの分野で活躍する人を、
手放しで尊敬してしまうところがある。

音楽に関し、私は技術的なことはわからない。
私は、絵でも音楽でも、評価の基準はただ一つ。
この胸に響くものがあるかどうか、
この一点を以ってしている。
彼女のコンサートを聞きに行き、それを確かめた。
すると、あったのだな、これが。
ショパンのピアノ曲を多く聞いた。
そして、ため息が出るほどに、参ってしまった。
だから本物だ。
以来、付き合いの度を深めている。
と言っても、彼女は名古屋在住であり、
そうそうお会い出来るわけではない。
たまに上京された時、そして彼女のスケジュールに
空きがある時、これを好機としている。

畏友と言っていいだろう。
それなのに嗚呼、彼女は逆に、この私を師匠と呼ぶ。
その書かれたところの文章を、私が評したのが、
いけなかったかもしれない。
「乾いた文体が、貴女の文の特徴です。
余分な情緒を排しているところ、
西欧風合理主義の表れかもしれません」
なんてことを、言ったせいかもしれない。
以来、彼女は、私に対する二人称代名詞に
「師匠」を用いるようになった。
こういう呼称は、人が真似しやすい。
それみたことか、本日初対面の多佳ちゃんまでもが、
私に向かい、師匠師匠と呼んでいる。

両嬢の話が尽きない。
その経験談は、ウィーンから始まり、
ドイツを経てフランスに至り、スペインにまで及ぶ。
両嬢とも、ヨーロッパを股にかけている感がある。
そのやりとりは、さながら、漫才を聞いている観がなくもない。
多佳ちゃんの突っ込みを、未知嬢が受け止める。
一拍置いて、ボソッと答える。
そのボソッの中に、巧まざるユーモアがある。
お二人を、新宿末広亭の、高座に立たせたらどうであろう……
演題は「女二人ヨーロッパを行く」
そして芸名は「荻窪姉妹」……
大受けに受けるのではないか……
なんてことを、私は酔った頭で、ぼんやり考えている。

日を改め、この会をまたやろう……という気運が高まっている。
私は、次回開催地に名乗りを上げた。
何を隠そう、そこは、私の囲碁サロンである。
碁盤を片付けての酒盛り、これにはもう、度重なる実績がある。
ここなら、時間を気にせず、いくらでも過ごせる。

但し、難点もある。
肴が乏しい。
ヤキトリに枝豆、つまりスーパーで買ったものくらいしか、
用意出来ない。
そして何よりの残念は、ピアノがないことだ。
音大出の才媛お二人を前にして、その即興演奏を聞けない。
これは一大痛恨事のように思われる。

半面で便利なこともある。
私のサロンは、酒屋の隣にある。
酒が足らなくなったら「おーい」と大声で叫べばいい。
「はーい」と店員がやって来る。

清酒の品揃えの豊富な店だ。
「越乃寒梅」か「獺祭」を飲んで頂こうと思う。
私はやはり、清酒が合っている。
私は次回、赤ワインのような、妙な酔っ払い方はしないであろう。
清酒なら、私はいくら酩酊しても、足が乱れるなんてことはない。

欠点がもう一つあった。
私のサロンは、ガラス戸一枚で、外界と接している。
道行く人々から、丸見えだ。
「昼間から飲んでいる、極楽とんぼめ……」
との蔑みは敢えて受けよう。
「こちとら自由人だ。文句あっか!」で開き直るまでだ。

問題は、多佳ちゃんである。
彼女、東京都の民生委員をやっている。
併せて児童委員をも兼ねている。
訳あって、就学困難な児童に対し、援助の手を差し伸べている。
その任務は、世人の崇敬を受けずにおかないだろう。

折しも、その関係者が通りかかり、聖職者の奔放なる、
飲酒の現場を見たら、何と思うであろうか。
それを考えると、少しためらうものがある。
安く飲めて、時間制限がなく、尚且つ、グランドピアノがある。
なんていう店はないであろうか。
あるわけがない。
と言う訳で、次回開催地は、未だに決まっていない。



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端倪すべからざる人々

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
楽しい昼餐でした。
好奇心旺盛な私は、違う世界の人と、飲み且つ語るのが好きです。
その人となりを、まだ見極められていません。
環境を替え、再度の開催を試みたいと思います。

2019/07/20 12:24:41

師匠!

シシーマニアさん

と呼びかけると、素性がばれてしまいますね・・。

先日は本当に、ありがとうございました。
久々の再会で、夢中になってしまいました。

かねがね、師匠と友人のスバル氏とご一緒に、飲みたいと思って居ましたので、願いが叶いました。

お二人のシェアが低かったのに配慮する暇もないほどに、たかちゃんとしゃべり倒していましたが・・。

荻窪組のお仲間に入れて戴いて、楽しかったです。

2019/07/20 09:58:04

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