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パトラッシュが駆ける!

我が町七不思議 

2019年07月06日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

毎朝、起き抜けに散歩に出る。
時間にして三十分ほど、歩数にして三千から四千。
帰宅して牛乳を飲む。
もちろん、ヒヤでやる。
私は、体温が高いせいだろう、冬でもヒヤでやる。
このせいかもしれない。
私は、便通が、高速道路並みに早い。
渋滞で悩んだことがない。

散歩コースを幾つか持っている。
私は長年にわたり、我が町をサーチし続け、
遂に、これはと思う散歩道を画定した。
いわば“極め付け”であって、これが東西南北に、
一コースずつある。
これはとは、緑の多いこと。
古木、巨木があり、枝が道に、大きく張り出しているような道がいい。
木々の発するフィトンチッドという化学物質が、
周辺に溢れているに違いない。
その緑のトンネルに差しかかり、私は深呼吸をする。
私は、喘息で悩んだことがない。

身体ばかりでなく、私の興味を満たしてくれる道もいい。
コースの途上に、特異な家がある。
近代建築の粋を凝らし……なんていう家ではない。
逆だ。
木造で破風の屋根を持つ家。
築半世紀以上で、外装のペンキの剥げ落ちた家、
などが私は好きだ。
その古さの中に、味わいがある。
美人は三日で飽きるが、ブスは何時までも飽きないと言う、
あれと同じだ。
私は、旧家に住む方々の、末長いご健勝を祈りつつ、
その門前を通る。
一方で、近代建築に向かっては、あっさりしたものだ。
斬新な御家で結構なことです。
まあ、せいぜいお気張りやすと言い、過ぎて行く。

さらに好きなのが、今は無住で、廃屋寸前なんていう家だ。
かすかに傾いていて、大きな地震が来たら、
崩壊してしまいそうな家。
その危うさの中に、滅びの美というものを感じる。
私のコースの中に、あるのだなこれが。

森村桂さん……と言っても、
今はもう、ご存知ない方が多いかもしれない。
「天国に一番近い島」を書いた小説家と言ったら、
年配者なら、思い出すのではあるまいか。
彼女の住んでおられた家が、もう大分前から、
倒壊寸前の状態になっている。
晩年の彼女は、離婚や闘病生活が重なり、
その華やかな前半生と比べ、多難であった。
最後は、入院中の病院で、自ら命を絶ったと伝えられている。

もしかすると、相続上のトラブルでも、あるのかもしれない。
その木造二階建ての旧居は、長く無人のままであった。
敷地は広く、二百坪もあるだろうか。
そこには木々が鬱蒼と茂り、昼なお暗かった。
その樹齢数十年と思われる古木が、が昨年切られた。
重機が入り、次々に伐採された。

木々の残骸は、細かく切り刻まれ、何処かに運ばれた。
軽井沢の別荘を思わせた庭も、今はすっかり明るくなった。
しかし、家屋は残っている。
大地震が来たら、ひっくり返りそうな風情で、
何とか命を長らえている。

よほど複雑な事情があるに違いない。
桂さんだって、こんな事態をよもや想像しなかったであろう。
私は気になって仕方ない。
私の北コースは、この旧居の前を通り、荻窪八幡の杜まで行き、
駅前通りを戻って来る。
桂さんのせいだ。
東西南北各コースの中で、これを歩くのが、多くなっている。

 * * *

夕方にも散歩に出る。
朝よりも、長く歩く。
さながら夕食の方が、質量ともに、朝食より豊かになるようなものだ。

朝とは少し、コースを変える。
商店街を歩く部分が多くなるのは、私が、木々ばかりでなく、
世俗にも興味があるからだ。
私は、枯れきっているわけではない。
色即是空は、頭ではわかったつもりだが、
私の体内には、まだ完全に定着していない。

最近開店した食堂が、やけに流行っている。
時に、店外に、待ち客が並ぶことがある。
何の変哲もない定食屋であり、
私にはその人気の理由がわからない。

かつて、新規開店のパン屋でも、同じような現象があった。
手作りパンを標榜する、その店もまた、
店外に待ち人が連なるほどの人気ぶりであった。
しかし、人の噂も七十五日と言う。
三カ月ほどで、その待ち人の列も消えた。
まことにもって、人の世の「気」というものは、移ろいやすい。

件の食堂は、半年過ぎたが依然として、満席の日が続いている。
きっと味が良いからだろう。
食べてみたいのだが、私は短気者であって、
待ってまで店に入りたくない。
それで未だに、その実態を確かめられないでいる。

逆に、閑散たる店がある。
店内に、客の居たためしがない。
という店が少なからずある。
陶器店、時計店、電気店、文具店などなど「屋」の付く商売は、
今や軒並みに、衰退を余儀なくされている。
大型店の伸長のせいだ。
おのれ憎っくき……と思うけれど、その私だって、
大型店で買っている。
品揃えや価格のことを考えると、つい、足が向いてしまう。
私は、人間の器が小さい。
弱者の味方になりたいとは、それは口だけであり、
実践したためしがない。

商店街の外れに、奇妙な店舗がある。
○○証券株式会社。
銀行とと共に、駅前の目立つところにあるべき証券会社が、
表通りから引っ込んだところの、住宅街にひっそりと看板を掲げている。
商売にとっては、いわば僻地である。

店舗は二階にあるようだ。
一階は駐車場になっている。
やって行けるのであろうか……
誰もが思うのではあるまいか。
しかし、存続している。
立地など、問題ではない。
ということは、よほどの上客を多数、抱えているのかもしれない。

私の夕べの散歩は、世相観察が主になる。
これを、街角ウォッチングと言えば、聞こえがいい。
有り体に言えば「野次馬」に他ならない。

 * * *

考えてみれば、私の囲碁サロンだって、
世の好奇心の対象であろう。
客の入っているのを、見たことがない。
と言う通行人が、多いのではあるまいか。
主は一体、何をしているのだろう。
食うに困っていないだろうか……
なんていう人は居ないと思うけれど。

先回りして、表戸に貼り紙をしてやろうかしら。
「当囲碁サロンは営利を目的としておりません」
これを見れば、通行人も悩まなくて済むかもしれない。
「囲碁の普及を目指す、席主の使命感により開いております」
ここまで言うと、いかにも気障だ。
あいつがねえ……
嘲笑されかねない。

私は長年、朝夕の散歩を続け、足底は厚く、頑健になったが、
面の皮の方は、依然薄いままだ。



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坂の上の家

パトラッシュさん

喜美さん、
そのお住まいは、私には理想の木造建築です。
夏はさぞ、風が吹き抜け、涼しいことでしょう。

傾いてなんかいません。
立派な家です。
お伺いすると、とても心が落ち着くのです。
お近くでしたら、本当に毎日、覗きに行きたいくらいです。

2019/07/06 21:07:40

我が家

喜美さん

パトさんお近くでしたら毎日
覗かれました この家 此の前より傾いたな住人もこの家の様に傾きながら歩くのかな?ああ魔法のばあ様かお化けが?色々想像しては毎日歩いていたでしょう?
此処まで覗きに来て下さい老婆がいますから。

2019/07/06 19:40:42

汗の季節

パトラッシュさん

oomotoさん、
少子化、高齢化の影響は、地方でこそ顕著なのでしょう。
廃屋に「美」など感じている、私達都会人は、少々甘いのかもしれません。

真夏のウィーキングは、きついです。
なるべく日盛りをさけてやります。
それでも、汗だくだくになります。
帰宅してシャワーを浴び、それからビールを飲む、その楽しみがあるので、やっているようなものです。

2019/07/06 19:14:55

廃屋は〜

さん

地方では高齢化が一段と進み耕作放棄農地、廃屋も多く見られ目にするにつけ寂しい気分になります。
ウォーキングもこれから炎天下は大変でしょうね。

2019/07/06 17:25:40

東京とはスケールが違い……

パトラッシュさん

風華さん、
ウォーカーにとって、函館は垂涎の地です。
毎日コースを替えたって、一年では歩ききれないくらいに、興趣深い道が多いことでしょう。
樹木だって、きっと、スケールが違うでしょう。
こちらの巨木は、そちらでは幼稚園児みたいなものかもしれません。

2019/07/06 14:05:56

穴場狙い

パトラッシュさん

漫歩さん、
「人の行く 裏に道あり 花の山」と言います。
何処にも意外な穴場があるものです。
私は、穴狙いに徹して、それがギャンブルの場合は失敗しますが、散歩の場合は、案外うまく行っているようです。

2019/07/06 13:56:09

今昔の感

パトラッシュさん

彩々さん、
それは名案です。
来客が引きも切らず……なんてことに、なるかもしれません。
その時は、彩々さん、ホステス役でお手伝いをお願いしますね。
(さらに来客が増えるかも……)

丹波さんの邸宅跡には、小ぶりな家が何軒も建ち、
故人を偲ぶ何物もありません。
道行く人も、そこが丹波さんゆかりの地であることを、知らないのでは……
そこは、東京女子大への通学路でもあります。
しかし、今の女子大生は、丹波さんの名前すら、知らないかもしれません。

2019/07/06 13:51:21

散歩道

風華さん

自然の中を歩くのだけが散歩ではなく、
都会の中にも歩く楽しみはあるものですね。
楽しく読ませていただきました。

私の好きな散歩コースにはニセアカシアや桜、ドイツトーヒの古木、巨木があり、緑の時期は嬉しいものです。
3年ほど前、大人3人で抱えるほどのポプラの巨木が
台風の時に根元からひっくり返ってしまい、そこだけ空間ができ、寂しくなりました。

2019/07/06 11:46:16

散歩の醍醐味

漫歩さん

流石に文筆家です。
散歩というものはこんなに興味深いものですよという具体的な見本です。

パトさんの後を付けながら楽しみました。

2019/07/06 11:44:05

今週は

彩々さん

ご近所の一人旅日記(?)でしたか。

また、並んで歩いているような気分で
楽しく読ませていただきました。

森村 桂さんのお住いがお近くに
あったのですね。
テレビのコメンテーターとしても
良く出てらして…ほのぼのとした
雰囲気を持つ方でしたね。
十数年前に亡くなられていたのですね。

丹波哲郎さんのお宅も、今は数件の家が
建ち並んで…都内は街の風景がどんどん
変化しますね。

パトさんの囲碁サロンの所まで
読み進めていると

>先回りして、表戸に貼り紙をしてやろうかしら。
「当囲碁サロンは営利を目的としておりません」

これに続けて、私も何か張り紙かもう一つ
小さな看板を出されても良いのではと
思っていました。

「持ち込みのお酒とおつまみ歓迎」と
小さな注意書きも添えて!

2019/07/06 10:50:10

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