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八十代万歳!(旧七十代万歳)
民話
2019年03月27日
テーマ:テーマ無し
娘の助言 (福娘童話集より__山形県の民話)
むかしむかし、ある長者が一人娘に良い婿(むこ)を迎えようと考えて、こんな立て札を立てました。
《娘婿を、求めている。
身分や家柄は、一切問わぬ。
勇気があり、勘の良い者を求めている。
我こそはと思う者は、集まるように。
例え婿に選ばれなくとも、来た者には金一分(きんいちぶ)を与える≫
それを見た一人の若者が、飛び上がって喜びました。
この若者は前々から長者の娘が好きだったのですが、身分が違い過ぎるとあきらめていたのです。
さて、大金持ちで美しい娘の婿になれるとあって、あちこちから大勢の若者が長者の家に集まって来ました。
長者は、若者たちに言いました。
「これから、婿選びの試験を行う。
裏山から松の木を転がすから、下で見事受け止めてみよ。
死ぬかもしれんから、怖い者はこの場を立ち去れ」
見てみると、裏山には大人が三人でも抱え切れないような、太い松の木の丸太が用意されています。
それが急な裏山の斜面を転がって来るのですから、失敗すれば間違いなく死んでしまいます。
「あの、おれやめます」
「おれも、まだ死にたくないから」
「おれも、おれも」
そう言って集まってきた若者のほとんどが、金一分をもらって帰っていきました。
残ったのは二人の男と、長者の娘の事が好きな若者の三人です。
「それでは、試験をはじめるぞ」
一人目の男は、転がってくる丸太を軽そうに受け止め、次の男も何とか受け止めました。
そして三人目の若者は、丸太転がしの用意の出来る間、長者の家の裏側でふるえていました。
「どうしよう。下手をすると、死んでしまうぞ。お嬢さんとは結婚したいが、死んでしまっては結婚どころではないし」
するとどこからか、こんな子守唄が聞こえてきました。
♪裏山からの、松の木は
♪紙で作った、偽物よ
それを聞いた若者は、
(なんだ。紙なら、どうって事はない)
と、なんなく丸太を受け止めました。
この試験では娘婿が決まらなかったので、次に長者は俵(たわら)を二つ下男に持ってこさせて、三人に言いました。
「この二つの俵の中には何がどれほど入っているか、俵に触れる事なく言い当ててみよ」
さっきの丸太転がしでは勇気を、そして今度は勘の良さを試そうと言うのです。
一人目の男は当てずっぽうを言って間違え、次の男も当てることが出来ませんでした。
若者は順番を待つ間、また家の裏側へ行って、
「どうしよう? さっぱりわからん」
と、考えていると、また子守唄が聞こえてきました。
♪俵の中身は、アワとキビ
♪入っているのは、一斗と五升
それを聞いた若者は、喜んで長者の前に行くと、
「俵の中にはアワとキビが、一斗五升づつ入っています」
と、答えました。
すると見事に正解で、若者は長者の娘婿に選ばれました。
そして祝言が終って嫁さんになった娘が若者に言うには、実は嫁さんも前から若者の事が好きで、あの子守唄は嫁さんが手伝いの娘に歌わせたのだという事です。
おしまい
改心した追い剥ぎ ( 福娘童話集より)
むかし、千葉県中部の東金(とうがね)には、上総木綿(かずさもめん)の問屋がたくさんありました。
その頃は、上総木綿を江戸まで運ぶと、大変なもうけがあったそうです。
その東金には三代続く商人の宗兵(そうべい)という人がいて、商売が上手な事で江戸にもその名前が知れ渡っていました。
ある日の事、宗兵が江戸で大もうけをして帰って来ると、山田の坂にさしかかった所で、刀を持ったおいはぎが現われたのです。
辺りは薄暗くて人気が無く、助けを求める事も出来ません。
おいはぎは、宗兵に刀を突きつけて言いました。
「おい、こら! あり金を残らず置いていけ!」
しかし宗兵は名の通った商人だけあって度胸も座っており、あわてる事なく相手の様子を観察しました。
よく見ると、おいはぎはまだ若くて、突きつけた刀の先がぶるぶると震えています。
(ははーん。こいつ、おいはぎをするのは今日が初めてだな。それなら)
宗兵は相手になめられない様にしっかりした口調で、しかし、相手を怒らせない程度に腰を低くして言いました。
「有り金と言いましても今は仕入れの帰りで、一両ほどしか持ち合わせがありません。
仕入れた品はありますが、とても素人さんには売りさばけない品です。
そこで、どうでしょう?
東金の街まで、一緒に来てくれませんか?
それなら、もう少し出せるのですが」
「うっ、うそじゃ、ないだろうな?」
「はい、わたしも商人です。ん。
うそは、申しません。
それに、お前さんが一緒に来てくれると、これからの道のりも安心ですし、荷車の後押しをしてくれれば、さらに助かりますので」
「・・・本当に、金をくれるのだな?」
「はい、本当です。だます様な事はしません」
「・・・わかった」
こうして話しがまとまり、宗兵とおいはぎは東金の街へと向かったのです。
おいはぎが荷車の後押しをしてくれたおかげで、あっという間に東金の街へ着く事が出来ました。
そして自分の店の前まで来た宗兵は、大きな声で言いました。
「おーい、今帰ったよ」
「あら、お帰りなさい。早かったですね」
奥さんやお店の人たちが、店から大勢出て来ました。
それを見て、おいはぎの顔色が青くなりました。
これだけ大勢が相手では、いくら刀を振り回しても勝てそうにありません。
おいはぎがすきを見て逃げ出そうと思っていると、宗兵は奥さんにおいはぎを紹介しました。
「実はな、この人が手伝ってくれたおかげで、早く帰って来られたんだ。礼をしたいので、奥に入ってもらうよ」
そして宗兵はおいはぎと奥の部屋に入ると、大事な話があるからと他の人たちを遠ざけました。
おどおどするおいはぎに、宗兵が言いました。
「まずは、これは約束のお金だ」
そう言って、おいはぎの前に二両のお金を出しました。
「次にこれは、ここまで荷車を押してくれたお礼だ」
そしてさらに一両のお金を追加すると、宗兵はおいはぎに言いました。
「見れば、お前さんはまだ若いようだし、行く当てがないのなら、わたしの所で働いてみてはどうだ? もちろん、今日の事はわたしの胸に収めておくよ」
それを聞いたおいはぎの目から、涙がこぼれました。
これほど人の心を温かく感じたのは、生まれて初めてです。
宗兵の人柄にすっかりほれ込んだおいはぎは、深々と頭を下げました。
「すみません。よろしくお願いしやす」
それから心を入れ替えて一生懸命働いたおいはぎは、やがて自分の店を持つほどに出世したという事です。
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