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八十代万歳!(旧七十代万歳)
発するFMで2話、サロンで3話語りました。
2018年11月13日
テーマ:テーマ無し
朝寝坊して、家事は捗らなかったけれど、昨日みたいな頭痛の心配はありませんでした。肩はガチガチでしたが。
昼食後、発するFMに行って、「ホタルの里のよばなし」と、「石が岳の青鬼」をろうどく。
これらの話は朗読向きだと思いました。
手に汗握る事件の話は、力強く畳み掛けた方が伝わるので。
二時半からは、藤久保4区の第4集会所のサロンに移動、「幽霊船」と、「床下に埋められた宝の壺」を語ってから、「ホタルの里の夜ばなし」を、朗読しました。
4時前帰宅。
今回は久々に、陽だまりのお仲間Mさんも参加されたので、隣に座っておしゃべり。同じマンションでも、なかなか会わないし、私が高齢大をやめているので、一緒に行動することが少なかったのです。
では季節外れですが、「ホタルの里の夜ばなし」を載せましょう。原作を読みながら、この原稿を作るのに1日がかりでした。
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蛍の里の夜ばなし・・・・周防徳地のななふしぎ より
お露は野々井の里に住む、八歳の美しい女の子だ。
二年前に亡くなった母親を忘れられず、最近父が後添いに迎えたおかつにはどうしても馴染めないでいた。
継母のおかつは大柄で、たいそう働き者、気性もさっぱりしていて、お父にも、お露にも、とっても優しかった。
けれどもお露は、体が弱く物静かだった亡き母とはまるっきり違う継母になじめず、おっ母さんとは呼べないでいた。
そんなある日、お露は三谷川の蛍が、無性に見たくなった。亡き母と見た蛍が、思い出されたからだった。
親たちが帰るには間があるので、ちょっとだけ見て戻ろうと、隣の一つ年下の勘太を誘って日暮れ前に三谷川にむかった。子供の足では30分近くかかるところだ。
日が落ちると、川の流れから湧き出るように蛍が増えて、夢見るような光が渦を巻いて行く。
今年初めて蛍を見た勘太は、
「きれいじゃのう!お露姉さ、ほーほーほーたるこい」とはしゃぎ回った。
「遠くへ行っちゃいけんよ、危ないで」走り回る勘太に、お露の声は聞こえただろうか。
お露は、亡き母と蛍を見た思い出にふけっていた。
その時不意に後ろから声がした。
「まあ、可愛らしいあねさま、たった一人で蛍見にきちゃぁたの?」
振り向くと、美しい女が微笑んでいた。女はお露の肩に優しく手をかけてきた。
「ううん、勘ちゃときたんじゃが、勘ちゃは見えんようになったの」
「大丈夫よ、おうちまで連れてっちゃるきに。おうちは近いの?」
「はい、野々井ですいに、ひとりでいにまする」
「まあお待ちよ、おばさんが連れて行くけに」と美しい女がおつゆの手を取った時、
「おお、こりゃあ上玉じゃないか」太い声がして大きな男が現れ、乱暴におつゆの手を掴んで、
「心配せんでもええ。とっても良えところに連れてってやるからな」
危険を感じたお露が「勘ちゃ、助けて!」と叫ぼうとした途端パッと口を塞がれ、手ぬぐいで猿ぐつわを噛まされてしまった。
女は
「おとなしくついてくるがええ、極楽みてえなとこに連れてっちゃるけに」今までの優しい顔とは打って変わって、夜叉のような恐ろしい顔で冷たく言った。
女は縄を出して、お露をぐるぐる巻きに縛ってしまった。
男は縛られたお露を軽々と担いで佐波川との合流点の木津まで来ると、土手を降り、茂みに隠すように繋いであった小舟にお露をごろんと放り込んだ。
おつゆは芋虫のように転がされて悔し涙をながしたが、どうすることもできなかった。
女も船に乗り込むと、男は素早く綱を解き、竹竿で、船を流れの真ん中へ押し出した。小舟はたちまち川の流れに乗った。あとは流れ下るばかりである。
人さらいの夫婦はうまくいったと暗闇の中でにんまりした。
ところがこの成り行きを勘太が見ていた。
勘太はお露とはぐれたと気付いて慌てて引き返す途中、ぐるぐる巻きにされて担がれたお露を見つけた。勘太はお露姉さんの一大事と、怖さも忘れてあとをつけ、小舟が動き出すのを見て、身を翻し野々井の里に一散に走った。
幼くても勘太は男の子であった。息せききって村に着くと、大人たちに叫んだ。
「お露姉さんがよその大人に捕まえられ、船に乗せられた!」
継母のおかつは、勘太の叫びを聞くなりパッと飛び出し、佐波川の土手を川下へ走った。
今ごろは川の流れに乗った舟は、もう半里先まで行っているはずだった。
十日月が中天にかかってきた。おかつは月明かりに川面を透かして見たが、舟の姿はない。
駆けて駆けて、心臓が止まろうとも、お露を取り戻そう。この上は日ごろ信心している月輪寺のお薬師さまにお縋りするしかないと、
「お薬師さま、助けてくださりませ。どうかお露の乗せられた舟を止めちょいてつかあさりませ」と、血を吐くように胸の奥底から叫びながら走った。
一方お露は佐波川の流れを下っていた。涙も枯れ果てて、中天の月を見ながら、父母のこと、勘ちゃや友達のことを思い浮かべて、みんなに二度と会えなくなってしまった自分の軽はずみな行いを、心の底から悔やんでいた。
人さらいの夫婦は、タバコをふかしながら、
「今夜の娘は上玉じゃけぇに、ひょっとすると三十両か、五十両になるかもしれんな」
「それも、私が上手に騙くらかしたからね」と上機嫌で喋っていた時、舟が、急に止まってしまった。
「ちょいと、舟が動かんようになったよ。どねぇしたんじゃろか」女にせっつかれて、男は竹竿で力一杯突っ張った。しかし船は同じところをぐるぐる回るばかりで、全く進まない。
「こりゃおかしいぞ、エンコにでも祟られたんじゃろか」
男は竹竿の力を抜いて、汗を拭いた。
「まあ、ほんまにエンコが出てきたら気味が悪いよ。早く船を出してよ」と、女は急かせるが、舟は何かに繋がれたかのように動かない。
走りづめに走ってきたおかつが、とうとう月の光を浴びて川の真ん中に浮かぶ小舟を見つけた。
「お薬師様有難うござります。お陰でお露の舟を見つけることができました。この上は、無事に助け出せますよう、いまひとつ力を与えてつかぁさりませ」おかつは心を込めて祈りながら、着物を脱ぎ捨てると、音も立てずに川に入って行った。富海の浜育ちのおかつは泳ぎが達者であった。
気付かれないよう潜って近づくと、そっと浮き上がり、いきなり船べりに手をかけて、一気に体重をかけたので、舟はたわいもなく傾いた。
男はわっと尻餅をつき、女も転げて這いながらやっと船べりを掴み、
「危ないじゃないか。落ちたらどうすんの」とわめき散らした。おかつは素早く船底をくぐり抜けて、反対側の船べりに取り付き、重い体で再び揺さぶった。舟は右に左に大きく傾いて、人さらいの夫婦はひとたまりもなく川に落ちて行った。
おつゆは丸太が転げるように、船底を転がったが、船べりにぶつかり、放り出されずに助かっていた。
おかつは、お露の無事を確認すると舟に這い上がり、竹竿を持ってすっくと立ち上がった。油断なく水面に目を光らせていると、男が泳いできて舟に手をかけようとした。
おかつは竹竿を振り上げて容赦なくビシビシと打ち据えた。男はおかつの怒りに満ちた立ち姿に恐れをなし、とても敵わぬとみて、溺れている女を支えて向こう岸に向かって泳ぎだした。彼らがどうなったかはわからない。
おかつは舟を岸に寄せ、木に繋ぐと、おつゆの猿轡と縄を解き放った。「おっかさん」お露はおかつの首に抱きついた。
「おお、恐ろしい目におうたのう。おっ母が来たからもう大丈夫じゃ」おかつはお露の背中を優しくさすり、
「さあ、いのう、お父が気遣うておるじゃろう」と二人して土手に上がったが、
「ありゃ、うちは裸ん坊じゃった」と慌てて、あたりを探し回り、着物や帯を見つけて身につけた。
「お露、かかさの背中に来い」と、おかつがおつゆに背を向けてしゃがんだ。
お露は広くて暖かいおかつの背に軽々と背負われながら、
「おっかさん、心配かけてごめん、私が悪かったけに」と、謝った。
「はや、過ぎたことじゃ。それにしてもお露は恐ろしいのをよう堪えたのう」
二人が話しながら帰りかけると、向こうから提灯を持った一団の人影が現れた。
中から、転げるように走ってきた勘太は、
「ねえさん、お露ねえさん」と、弾んだ声でお露に飛びついた。
続いておとうが走り寄り、
「勘ちゃの知らせで皆の衆と急いで駆けつけたんじゃが、とうてい舟には追いつけまいと諦めながら探しにきたところじゃった。よう、お露を取り戻してくれたのう」と、おかつをねぎらい、ひしと、お露を抱きしめた。
おかつが、お薬師さまのご加護で舟に追いつけたいきさつと、お露の大事を報せに走ってくれた勘ちゃの大手柄を、みんなに伝えたので、勘ちゃは照れながらも嬉しそうだった。
お父が、おかつの足元を見て、
「ありゃあお前、裸足じゃったか」
「夢中で駆けたから、草履をどうしたか覚えちょらん。まあ夜じゃけえ、このまま裸足でいのう。うちの鶏だって裸足じゃ」おかつは明るく笑った。
うちに帰ると、お父が、手早く雑炊を作ってくれて、親子三人鍋を囲んでフーフー言いながら腹をいっぱいにした。
お露はおかつの布団にもぐりこんで、朝までぐっすり眠った。
夜が明けるとお父はお薬師さまへのお礼じゃと、餅を搗いた。
三人は上村の月輪寺薬師堂へ参詣し餅を供えて心からお礼を述べた。
その後もおかつは、毎月1日15日には必ず参詣して信心につとめた。
お露とおかつは義理の隔てが取れて、実の母と娘のように仲睦まじくなった。
やがて弟が生まれ、妹も生まれた。たいそう喜んだお露は、まめに弟や妹の面倒を見て母を助けた。
一家は後々までも穏やかに仲良く暮らしたという。(14分)
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