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黄金の砂浜 (日本の民話)
2018年09月26日
テーマ:テーマ無し
「黄金の砂浜」 大川悦生著 子どもに聞かせる日本の民話より。
昔から漁民たちの間では、漁船に乗り組んで、ご飯や味噌汁を作る炊事係を「カシキ」と呼んでいました。
大抵漁師見習いの少年が13才くらいから勤め始めたものです。
昔、知多湾に浮かぶある島に「六」と呼ばれる子どもがおりましたそうな。
早くに父親を亡くし貧しかったので12歳で網元に雇われ、カシキになりました。
「ええか、漁師も飯を食わなんだら魚が獲れん。カシキいうのは大事な仕事じゃ。しっかりと勤めてくれよ」と親方に言われて、一生懸命働くのですが、何しろまだ子供ですし、覚えの良い方でもないので、仕事が間に合わず、叱られてばかりいました。
漁師は網を入れて、それを引き上げるまでのわずかな時間に飯を食うことが多いので、間に合わなければどやされますし、今日の飯は生煮えだとか味噌汁が薄いとか、怒られてばかりいました。
六は素直な子で 、何を言われても口答え一つせず、誰よりも先に船に乗って支度をし、カシキの仕事に一生懸命でした。2年経ち3年経って、普通の子なら仕事に慣れて褒められても良い頃ですが、六は相変わらず小言を言われていました。
けれども六はとっても優しい心遣いを持っておりました。
食事の後に出た残り物をご飯粒一つまで綺麗に集めて、
「おイオ、おあがり。おイオお上がり」ゆうて船べりから海に撒いてやるのでした。
おイオとはお魚のことです。
誰に教わったわけでなく、自分たちが暮らしを立てていけるのは、海の神様から授かった魚たちのおかげだ、だからせめて残り物でも、お礼の印におイオ達にあげようと思ったのでした。
「おイオ、お上がり」
「おイオ、お上がり」
六の声はある時は鏡のような波の上を伝わって行き、ある時は泡立つ波間に吸い込まれていきました。
仲間の漁師たちはみんな笑って見ておりました。
やがて十何年の月日が経ちました。同じ年頃の島の若者たちは、皆一人前の漁師になって、嫁さんを迎えましたが、六はまだカシキのままでした。
自分より年下のものから 「おい、六、早いとこ飯を頼むぜよ」と言われながら、せこせこと働いていました。
食事の後の残り物を、
「おイオ、お上がり」と言って撒いてやるのも変わりませんでした。
昔の漁船もマグロやカツオなどを追って、遠い沖の方まで漁に出ました。幾晩も海の上で過ごすことだってありました。
ある夜、六の乗った船はだいぶ沖へ出て錨を下ろしました。
一日の漁で疲れた漁師たちは、船底に降りて寝込んでおりました。
起きていたのはカシキの六だけでした。
みんなの眠りの邪魔をしてはいけない、音を立てないようにと気遣いながら、六は食事の後片付けをして、明日の朝の支度にかかりました。
波の静かな夜でしたが、船はうねりに揺られていました。
空には丸い月が出ていました。
やっと仕事が終わり、ああこれで寝られると思った時、六は、
「はて変だぞ、どうしたんかの」と呟きました。
ことりとも船が揺れなくなったのです。船底におってもそれはすぐ分かりました。六は、トントンと甲板に上がってきて、周りを見ました。そして本当に驚きました。
海の水がすっかり干上がり、船は広い砂浜の真ん中に止まっていたのでした。
いいえそれだけではありません。砂浜の砂がキラキラキラキラと眩しいばかりの金色に輝いておりました。
「不思議じゃあ。何が起こったんかいのう」
六は、なんども目をこすりました。
それから太い綱を下ろすと、その綱につかまって砂浜に降りて見ました。足がしっかり砂浜につきました。手のひらに砂を掬うと、月の光を浴びて一粒一粒が黄金のように光りました。た。
他の漁師を起こしてくるつもりで、六は船に戻りましたが、誰も目を覚ましそうになかったので、からの桶を抱えもう一度砂浜に降りました。
金色の砂を桶にいっぱい詰め、やっとこさ抱え上げて船底へ持ち込みました。六はそのまま隅の方で眠ってしまいました。
「網を入れるぞ、さあ早く起きんかい」漁師に揺り起こされた時東の空が明るくなっていました。
もっと驚いたことに、船は波の上で揺れておりました。あの砂浜はどこへ消えたのでしょうか。見渡す限り大海原の真ん中でした。
六は、目をこすってから言いました。
「みんな聞いておくれ、この船は夜中に砂浜へ乗り上げとったんじゃ。嘘じゃないぜ、俺ちゃんと砂浜に降りたんだから」
「なんじゃと、今朝の六はすっかりねぼけとるわい」
漁師たちは笑って誰も相手にしません。それで六は一人の腕を掴んで船底に降り、桶いっぱいの砂を見せました。
「おお、こがねじゃ、金の粒じゃ。みんな見ろや」たちまち大騒ぎになりましたが、ほんとに金の砂だとわかると、漁師たちは欲が出て、
「六、俺にも分けてくれ」
「俺にも、いいじゃろう」っと争って手を出しました。
「ええよ、一つかみずつ分けてあげるで」
六は、みんなに分けてやりました。それでもまだ桶には半分以上の金の砂が残っていました。
その日の夕方船は獲れた魚を市場に出すために大きな港に入りました。
「よし、これだけの金がありゃ、思いっきり遊べるし、土産物も買えるわい」漁師たちは金の砂を持ってほくほく顔で船を降りました。ところが、おかへあがってから金の砂を見ると、誰のも彼のも、ただの白っぽい砂に変わっておって、六の分の砂だけが、黄金のままキラキラと光っていました。
「はあ、これで分かった。金の砂はカシキの六への授かりものじゃ。六は 、なんぼ笑われても“おイオお上がりちゅうて残り物を海に撒いとった。海の神様がお礼として六に下されたものなんじゃ」
一番年取った漁師が言ったので、みんなはただうなづくばかりでした。
島に戻った六は、黄金の砂を元手にして、何艘も船を作り、家屋敷を構え、新しい網元になりました。そして六左エ門と名乗り「カシキ長者」とも呼ばれて、それから長いこと栄えましたそうな。
またこの事があってから、漁師たちは食事の残り物を海に撒く時、
「おイオ、お上がり。おイオお上がりと言うのを忘れなかったそうです。
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