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日本民話「聞き耳ずきん」 

2017年07月30日 外部ブログ記事
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ききみみずきん(岩波少年文庫「わらしべ長者」木下順二 より再話)
昔ある村に、藤六(とうろく)という百姓が、おっかさんと二人きりで住んでおった。僅かばかりの田畑では暮らしが立たんもんでなぁ、他人の荷物を預かって、背負って運ぶ「荷負い人足」の仕事もしておった。どんな重い荷物も背負って、どんな山坂も元気に越えて歩くので、みんなから「荷負いの藤六」と呼ばれて人気者であった。ある雨の朝、藤六が出かける支度をしておるとおっかさんが言った。「きょうは雨がひどいに、いかにゃぁならんのか」「ああ、今日は向こうの村の長者屋敷に、嫁入り箪笥を届けることになっとるで、行かにゃあならん」「そんならこれ被っていけ。死んだおとっつぁまが大事にしていなさった頭巾が、ひょっこり見つかったで、お前被って行け」藤六は古びた頭巾を被ると、「そんじゃぁ今日はとっつあまと二人で仕事してくるわ」と、笑って出かけて行った。今日の仕事は、あっちの村の大工さんから箪笥を預かって、向こうの村の長者屋敷に届ける仕事であった。箪笥を背負って、村境の林まで来た時には、雨は嘘のようにあがって、陽射しまで射していた。「よう晴れたもんだ」と言いながら、藤六は大きな木の下に箪笥を下ろし、自分も腰を下ろして一休みした。腰の手ぬぐいをひきぬいて、額の汗を拭いた。その時、「行こうや行こうや、村へ行こうや」というかわいい女の子の声がした。びっくりして振り向いたがだぁれもおらん。「なんだ、そら耳か」と思ってまた汗を拭くと、「雨が止んだで、米やら麦やら、たんと干しているに違いない。行こうや行こうや、村へ行こうや」「あたいはお腹減っとらんでもっとここで遊んでく」「行こうや行こうや」「遊ぼうや遊ぼうや」大勢の声がした。びっくりして見回したがだぁれもおらん。小鳥の囀りがうるさいほどに聞こえているだけであった。また汗を拭くと、「虫がたんと居るで、みんなで食べ」ははんと、藤六は気がついた。頭巾を横にずらすと、小鳥の声が人の言葉になって聞こえ、手を離すとまた小鳥の囀りに戻るのであった。「これは面白い頭巾だ」藤六は嬉しくなって何度も何度も、試してみた。そのうちにこんな話が聞こえてきた。「向こうの村の長者どんの娘が今大病だよ」「そうだよそうだよ、もうじき嫁入りだっちゅうに、気の毒なこった」「あの子の病気は人間には治せないよ」「そうだよそうだよ、庭の楠(くすのき)を元気にしてやらねば、あの子の病気は治らないよ」「でも、その楠を治すのだって、人間では駄目だよ」「そうだよそうだよ、庭の木たちの話を聞かねば、治せないよ」「でも木たちは、おらだち小鳥が寝静まった真夜中にしか話さないものな、誰か人間が木たちの話を聴いてやれたらいいのになぁ」藤六は思わずいった。「小鳥だち安心しろ。おらが木たちの話し聴いてきてやるでよ」小鳥たちはびっくりして、みんなどこかへ飛んで行ってしまった。
さて、向こうの村の長者どんは、有名な欲張りで意地悪であったから、箪笥を運んできた荷負い人足の言うことなど聞く耳もちゃあせん。それでも藤六はしつっこく頼んだ。「今晩おらをこの庭に入れてくれれば、お嬢さんの病気が良くなるだに」長者どんも根負けして、「じゃあ入れてやるが、娘がようならなんだら、酷い目に会わすから、覚えとけ」藤六はやっと庭に入れてもらった。
なるほど、大きな楠が今にも枯れそうになっておる。庭にはたくさんの木が植わっていて林になっている。だがまだ明るいので、木たちは何にも喋らない。やがて日が暮れて真っ暗になったが、木たちは何にも喋らない。真夜中を過ぎて、藤六が「もう駄目か」と思ったその時、木たちはいっせいに体をゆすり始めた。藤六は慌てて頭巾をずらし、かがみ込んで聞き耳を立てた。木たちはぼそぼそと喋った。「この楠ももうじき死ぬのかなぁ」「根に水がこんようになっては、どうしようもないわなぁ」「人間におらだちの言葉が解ったら良いのになぁ」藤六は「おらには、お前たちの言葉がわかるぞ」と、言いそうになったが、そんなことをして木たちが黙ってしまっては大変なので、ぐっとこらえて聞き耳を立てておった。どんな話が聞けたものか、藤六は夜明けになると、長者屋敷の門を這い出して真っ直ぐ裏山に登って行った。かなり上まで登ったところに、大きな平たい石があった。「これだな、ゆんべ木たちがのけて欲しいと言うとったのは」藤六は石に手をかけて、うんとこら、よいしょこらときばったが、何しろ大きな石は重たくて、びくとも動かん。藤六は太い枝を見つけてきて、石の下にねじ込むと、肩に担いで、「うんとこら、よいしょこら」と気張っておった。そのとき下の方から、長者どんが息を切らして登ってくるのが見えた。「やい!その石に触るな! その石はおらのだぞ。動かしたらえらいことが起きるぞ、触るな!」藤六はかまわず、「うんとこら、よいしょこら」とやっておった。長者どんは登り着いて、「やい!その石をどうする気だ、動かしたらえらいことになるというのに、分からんのか!」「邪魔だ邪魔だ! この石をのければ楠が元気になって、お嬢さんの病気が治るんだ! うんとこら、よいしょこら!」石は地響きを立ててひっくり返った。藤六は尻餅をつき、長者どんもへたり込んでしまった。石がのいた跡には穴があった。穴の底から「ごぼごぼごぼりん、ごぼごぼごぼりん」妙な音が聞こえてきた。音はどんどん上がってきて、穴から水がどっと吹き出した。水の量はどんどん増えて、藤六も長者どんも押し流されてしまった。藤六は途中の木にしがみついてこの様子を見ておったが、長者どんは下まで流されていってしまった。この大きな石は、長者どんの田んぼにだけたっぷり水が行くようにする仕掛けであったので、それを藤六がどけてくれたおかげで、村じゅうの田んぼに水が行き渡り、あぜ道の花も咲きそろった。楠はたちまち元気になって、青い芽をふき緑の葉を茂らせた。すると、不思議なことに娘の病気もケロケロっと治ってしまった。ただなぁ、長者どんだけは・・・あの大水に流されてからと言うもの、なんだか、コソッとなっちまって・・・元気が無いのだそうだ。 おしまい。


[後日談]このあとおっかさんを林に連れて行って、頭巾をかぶせて、「父さんもこうして楽しんでいたんだろうね」と言うと「いいや、父さんは何にも知らなんだと思うよ。おらに何にも言わなかったもの」とおっかさんは答えるのです。
時間の関係もあって、語るときは割愛していますが。

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