人生を変えた「選択」はありますか?それぞれの物語が大きく動く「選択」とは
掲載日:2021年10月25日

人生を変えた「選択」はありますか?それぞれの物語が大きく動く「選択」とは

誰にとっても人生は一回こっきり。
その人生は、小さな選択の連続です。
私たちは細やかだと思っていたその選択によって、思いもよらない人生を歩むことになることも。
それが正解かどうかは、一生を終えるまで分かりようもありませんが、小さい頃から“4回も苗字が変わった少女” なら、その選択が思いもよらない“ユニーク”な人生へと導くことを実感しているでしょう。

今回は、2021年10月29日(金)公開の映画『そして、バトンは渡された』を核に「思わぬことから人生が大きく変わってしまう話」をご紹介します。

『東京物語』を演じた笠智衆さんとヤクザの組長になった『セーラー服と機関銃』の場合

『東京物語』を演じた笠智衆さん

まずは小津安二郎監督作品や山田洋次監督『男はつらいよ』シリーズで知られる俳優の笠智衆さん。
東京に住む子どもたちを訪ね、夫婦で尾道から出てくる父親を演じた『東京物語』(1953)は高い評価を受ける世界的な名作ですが、あれを演じたとき笠さんは49歳。長女・志げを演じた杉村春子さんとは2歳しか離れていませんでした。
初主演作『父ありき』(1942)で佐野周二さんと親子を演じたときはまだ38歳の若さ。老けメイクを施していたとはいえ、若い頃から落ち着いた空気を纏うことができる俳優だったといえます。
なぜ若くしてそのような演技を生み出せたのか?
笠さんは、九州のお寺の次男として生まれました。
引っ込み思案な性格で、子どもの頃は人前で演じる仕事に就くなんて思いもしなかったのではないでしょうか。
そんな笠さんが映画俳優になったのは、厳しかった父の急死、既に別の職に就いていた兄の不在で、ご実家のお寺を継ぐという事実が目前に迫ったため。半年だけ住職を務めますが、どうしても継ぎたくなかった笠さんは、お兄さんにお詫びの手紙を書き、学生時代に研究生になっていた松竹に大部屋俳優として入社します。
もしお兄さんが順当にお寺を継いでいたら、就職を急ぐ必要のない笠さんは、俳優になっていなかったかもしれません。
俳優になったものの、真面目で訥弁な笠さんの大部屋生活は11年間続きました。
でも小津監督は、笠さんの熱心かつ素朴で辛抱強いという持ち味を理解していました。
そして『父ありき』の主演に抜擢するわけです。

ヤクザの組長になった『セーラー服と機関銃』

思わぬことから人生が大きく変わってしまう話と言えば、相米慎二監督『セーラー服と機関銃』(1981)もそうでした。
普通の高校生・星泉(薬師丸ひろ子)は、ヤクザの組長であったおじの遺言により、ある日高校の正門でヤクザのお迎えを受け、事故で亡くなった父の代わりに目高組を継いで、4代目組長となります。
荒唐無稽な物語展開に加え、衣装や美術、照明にそれまで見たことのないアイデアが詰め込まれ、青春もの、スリラー、ヤクザものなど通常のジャンル映画を期待した人を戸惑わせたエモーショナルな作品でした。
今年、公開から40周年。
当時の日本は、右肩上がりの経済成長の途中で、どんどんシステマティックになっていました。
でも一方で多くの方が何かを失っているという漠たる喪失感を感じている時代でもありました。
そんな時代感に、1カ月の間にすべてを手にし、失った『セーラー服と機関銃』のヒロインの儚さはマッチしていたのだと思います。社会現象となる大ヒットを記録しました。

映画『そして、バトンは渡された』

『そして、バトンは渡された』も、選択が人生に大きな変化をもたらす作品です。
本作では、現代人が求める“確かな関係”とは? をモチーフに、2つの物語が交錯して描かれます。

ひとつは、血の繋がらない親に育てられ、4回苗字が変わった現実的な高校生の森宮優子(永野)の物語。
思いっきり高学歴ながら少しズレた料理上手な今の父親・森宮さん(田中圭)との暮らし、遠慮しがちな自分の夢や恋愛について、若干醒めた調子ながらリアルに向き合おうとする優子の成長が描かれます。

もうひとつは、ピアノが好きな泣き虫みぃたん(稲垣来泉)の母親で、目的のためなら手段を択ばない魔性の女・梨花(石原さとみ)の物語。水戸さん(大森南朋)、泉ヶ原さん(市村正親)と次々に結婚を繰り返していく奔放さの裏に秘められた思いが、徐々に明らかになっていきます。

この作品の素敵なところは、現代人にとって重要な“自己肯定感”を優子がきちんと養っていく物語であるところ。その要素は原作にもありますが、映画のほうが強くなっています。
時代感を映画に盛り込んだ部分に関しては、脚本家の橋本裕志が前田監督やプロデューサーと熟考を重ねたのだそう。その分、サスペンスフルなつくりになっていて惹かれます。

そんな前田哲監督のデビュー作は、相米慎二が総監督した『ポッキー坂恋物語「かわいい人」』(1998)。当時の座談会で、相米氏は前田監督に「(この脚本は)ある小さな感情が1つだけ出ればいい。それをうまく撮っている」こと、「撮ったときの気分に引きずられることなく、写ったものだけを見るように編集している」こと、「監督と俳優の会話がきちんとできている」ことを伝え、「気持ちいい映画ができた」と結んでいます。
偶然ではありますが、『そして、バトンは渡された』にも同じことが言える。そう思いました。
今度、皆さんの実体験の「あのときの選択が人生を変えた」話を聞かせてくださいね。

映画『そして、バトンは渡された』2021年10月29日(金)公開


出演:永野芽郁 田中圭 / 石原さとみ ほか
原作:瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』文春文庫刊
監督:前田哲
脚本:橋本裕志
配給:ワーナー・ブラザース映画
2021年製作/137分/G/日本

■公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/soshitebaton-movie/
■公式ツイッター:https://twitter.com/baton_movie
■公式Instagram:https://www.instagram.com/baton_movie/
■予告映像:https://youtu.be/-2Y95fKypJ4
映画『そして、バトンは渡された』

関口裕子 プロフィール

「キネマ旬報」、エンタテインメント業界紙VARIETYの日本版「バラエティ・ジャパン」編集長を経て、フリーランスに。執筆、編集、コンサルタントとして活動中。趣味は、歴史散歩。

スタッフのつぶやき

いかがでしたか?
「あの時こうしていれば」と後悔することもありますが、その選択が正しかったからこそ、今の自分がある。
そう思えることも確かにあるなぁとコラムを読みながら思いました。
これからもきっと思わぬ選択を迫られることもあるかと思います。人生って面白いですね。

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関口裕子の LIFE is シネマ






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