読書日記

『曲亭の家』 読書日記171 

2023年03月20日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記

西條奈加『曲亭の家』KADOKAWA(図書館)

当代一の人気作家・曲亭(滝沢)馬琴の息子に嫁いだお路。横暴な舅、病持ち・癇癪持ちの夫と姑…。修羅の家で作家の深い業に振り回されながらも、お路は己の道を切り開いていき…。直木賞受賞後初の書き下ろし長篇。

実を言えば読み始めはこの本に馴染めなかった。著者にしては暗い話だなぁと感じ、巻頭部分を読んだきりで返却日の2日前まで3週間ほど放置(図書館で借りたものだが、貸出期間は2週間で予約者が居なければ1回だけ延長できてさらに2週間借りられる)。で、やはり読まずに返却するのは何だかなぁと思って、続きを読み始めたら一気読みになった。

滝沢馬琴と主人公お路(実際は「おみち」と仮名書きに改名している)の年表を書くと
明和4年(1767年)滝澤馬琴生まれる。
寛政5年(1793年)その長男鎮五郎(しずごろう)宗伯(そうはく)生まれる。
文政10年(1827年)お路、滝澤宗伯と結婚。
天保4年(1833年)馬琴、右目の明を失う。
天保6年(1835年)宗伯死す。
天保11年(1840年)馬琴、両眼失明。
天保12年(1841年)この年の正月よりおみちの手を借りて『南総里見八犬伝』を続稿。8月に完成する。
嘉永元年(1848年)馬琴死す。82歳。
嘉永2年(1849年)お路の長男(馬琴の孫)太郎死す
安政5年(1858年)お路死す。53歳。

おおむね1827年頃より1850年代までが小説で描かれる時代であり、巻頭では著名人である曲亭馬琴の息子と結婚したら、思いの外の結婚生活が綴られる。それが宗伯の死によって馬琴家から離れることが出来たのに長男太郎と離れがたく馬琴家に残ったあたりから、話が動き始める。お路が一つの心境「似たような日々の中に、小さな楽しみを見つける、それが大事です。今日は煮物がよくできたとか、今年は柿の木がたんと実をつけたとか……。そうそう、お幸(さち)が今日、初めて笑ったのですよ」(本文より:宗伯との最後の会話)をもつに至ったことが大きいのであろう。

失明した馬琴との共同作業(口述筆記であるがまさに共同作業である)により、『南総里見八犬伝』を完成させ、さらに馬琴亡き後『仮名読八犬伝』をも曲亭琴童(馬琴から与えられたお路の筆名)として完成させたいきさつも語られるが、お路にもともとそれなりの素養があったのか、馬琴との協同作業で鍛えられたのかは不明であるが恐らく後者であろう。

ちなみに、現在、作家は原稿を書けば原稿料を貰うが、その嚆矢が当時の二大作家曲亭馬琴と山東京伝であったことはこの本で知った(どうやら馬琴の著作の中にあるらしい)。つまり、戯作者は他に職業を持ち趣味として作品を書くというのが当時であった。その他に十返舎一九も潤筆(原稿料)を貰って生活していたが、一九と馬琴は日本における職業作家の嚆矢でもあった。
(2023年3月11日読了)



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